もっちり、ねっとりとした食感 手作りほし芋 産地直送
蛍の里として名を知られた「上林川」の清流のほとりにある圃場で育った「紅はるか」使用
プレマシャンティ®は、繋がりのなかで生まれます。
それは人であったり、自然であったり、商品であったりします。
ご紹介頂いたご縁を辿って各地を旅するうちに、その土地だからこその出会いもあります。
その土地でしか、その時期にしか出会えない味。
皆さんにご紹介したいけれど、生ものであったり、作る量が限られていたりと、私たちがお預かりするには難しい商品も決して少なくありません。
また作り手を身近に感じて初めて、より深い味わいが生まれる商品もあります。
プレマシャンティ®の開拓チームが、各地を巡り、作り手の目を見て、言葉を交わして惚れ込んだ数々をお届けします。
サツマイモ好きに送る、京都のほし芋
江戸の浮世草子作家・井原西鶴の一説に、「とかく女の好むもの、芝居浄瑠璃芋蛸南瓜(いもたこなんきん)」とあるそうだ。「世間胸算用」からの出典だともいわれるけれど、私は調べたことがないので実際のところはわからない。女性は「芋栗南瓜」を好むのだと云う説もあるのだけれど、いずれにせよ、「芋」と「南瓜(かぼちゃ)」は好まれる傾向にあるらしい。起源がどこかはさておいて、語呂の良さはピカイチ。一度聞くと耳に残る言い回しは、「甘くてホクホクした食べ物」に愛着を持つひとの性質を言い当ててもいると思う。
「生き物がこぞって冬眠したがる冬を目前にして、人間も冬眠こそしないものの、エネルギーを蓄える生き物の本質とは無縁ではない。冬を目の前に迎えた季節に旬を迎える芋や栗、旬こそ違えど成熟して旨さが深まる南瓜は、でんぷん質もたっぷり。肌に触れる空気が冷たさを含む頃に、甘味の濃いサツマイモやかぼちゃを食べたくなるのもある意味、生き物の本能なのかもしれない。
サツマイモと云えば、焼き芋。どうやら焼き芋は、ホクホク系からねっとり系、ねっとり系からホクホク系へと、ぐるぐる巡るブームを何度も繰り返しているようで、このブームに沿うように芋の品種改良も続いているらしい。気が付いたら、「品種」でサツマイモを指名買いしている昨今。これもサツマイモブームの影響だろうか。焼き芋ほどの知名度や市民権を得てはいないけれど、地味に人気を集めている「ほし芋」もまた、昨今は品種指定のようだ。安納芋の干芋だとか、タマユタカの干芋だとか、「ベルベット」の干芋だとか。麦芽糖の含有が多く、上品な甘さの紅はるかは、干芋にも焼き芋にもむいているようで、ねっとりとした食感も相まってか、なぜだかほし芋の主流品種になりつつある。紅はるか勢力が増した昨今は、見た目の色が地味でくすんでいるのが当たり前だったほし芋が、カスタードクリームのような鮮やかな黄色やタンジェリンオレンジになったから、見た目に気後れしてしまう。とはいえ、品種を選んだところで当たりはずれはある。
京都綾部の紅はるか
干芋は、柔らかいだけでは美味しくない。
そう思うのは私だけだろうか。
最初は適度な歯ごたえ。あとを追うように、もっちり、ねっとりとした食感が内側から顔を出す。身がしっかりしすぎていてもがっかりするけれど、ある程度の噛み応えがあって、唾液に混ざる毎に柔らかく、繊維も感じながら甘さがじわっと出てくるのが嬉しい。ねっとりは全部じゃなく、できる限り内側にとどまっていて欲しい。だって、干芋をつまんだ指にねっちょりとついて、都度ぬぐい取ってはいられないという、ちょっと勝手な都合もある。
京都ベジラボの干芋は、この内側ねっちょり、外側すっきりの理想の干芋が「多い」。もちろん、全部じゃない。蜜をまとって、粘っている子がいるのもご愛敬だ。昨今のほし芋らしく、地味に徹しきれない派手な見た目でもある。マンダリンオレンジやサフランイエローのような鮮やかな名前がふさわしいような、鮮やかな色合いの果肉である。かつての土色だったり、朽葉色だったりしたほし芋とは、一線を画した旨そうな色をしている。京都ベジラボのほし芋も、品種は「紅はるか」。蛍の里として名を知られた「上林川」の清流のほとりにある圃場で育った健康な紅はるかたちだ。「健康な?」と首を傾げた方。圃場の名前が、「健康ファーム」というのです。
2013年に設立された健康ファームは、京都府綾部市に属する山間を拠点にする農業生産法人である。化学肥料や化学合成農薬を一切使用せず、手で農産物の成長を阻害する虫たちを手で取り除き、圃場の維持に人力で草刈りをしたりと、耕作面積を少しずつ増やしながら、人手を頼りにした農業を続けている。彼らが維持する圃場には、微生物もミミズも暮らす。微生物やミミズが暮らす土をつくり、その土がサツマイモなどの農産物を育てる。周囲には大きな道路も通らず、また交通量も非常に少ない。民家も少ないから、太陽のリズムのままに植物たちが育っている。2016年からは自分たちで加工も始めた。収穫したさつま芋を蒸して、皮をむき、スライスして、干す。単純なようで手間がかかるほし芋を、芋の味わいそのものを存分に引き出しながら加工している。
健康ファームが選んだ品種も、「紅はるか」。見た目も鮮やかで、若干ねっとり目の食感ではあるけれど、スッキリした甘さとねばつかない身が、仕事中の間食にも気兼ねなく食べやすい干芋である。紅はるかの干芋は、常々、どこか現代的な、計算された味のバランスがあるように感じていた。甘みの強さだとか、甘さのキレの良さだとか、旨味の濃さだとか。洗練されたといえば聞こえはいいが、余韻を楽しむいとまがない。つくられたお菓子のようで、「美味しいよね」で消えてしまう。同じ紅はるかのはずなのに、しかし、健康ファームの紅はるか干芋は懐かしさがある。「芋っぽい」というのだろうか。芋が強く味わえる。1枚たべて、じっくり噛んで、満足できる味の深さがある。
健康ファームとあやべ
綾部市総務部総務課が平成29年2月に発行した「あやべ統計書」をもとに計算すると、綾部市のなかでも健康ファームがある地区の人口密度は、1キロ平方メートルあたりに37人程度。H27年度の綾部市の人口密度は、約100人//km2である。(ちなみに2020年の国勢調査によると、京都府は558人/km2で、人口密度トップの東京都は6,402人/km2だそうだ。)樹木が生い茂り、耕作地も多く残り、月並みな表現でしかないが「自然が豊か」に残る場所で、ゆったりと暮らしが営まれているのが、健康ファームが拠点を置く地域だと云える。静かで自然が豊かな場所のはずなのに、人口密度が低い地域は、高速道路をはじめとする人口密集地のためのインフラが進出し、頭上を高速道路が走っていることが少なくない。いわゆる「山村あるある」だが、こればかりは実際に足を運んでみるまでわからない。健康ファームの周囲には、広い道路もなく、交通量も非常にすくない。設立以来、6か月ごとに圃場の土と水を検査しつづけているという健康ファーム。手間のかかる農法で圃場を増やし、農業をとおして地域の雇用を増やし、健康な土壌と生命力豊かな環境を次の世代に繋いでいこうと日々、活動を続けている。
有機JAS認証を受けて農産物生産に従事するひとたちが増えてきた昨今、「化学肥料や科学合成農薬に頼らない」農産物は珍しくなくなってきた。作り手の費やす熱量は決して少なくはないし、彼らが届ける農産物は想いの詰まったものだろう。とはいえ、実際に圃場に足を運んで気づくこともある。すぐ近くに交通量の多い道路がはしっていたり、近隣に民家が迫っていたり。化学合成された農業資材を使うかどうかとは、また別のところに気づかいが必要な圃場があったりもする。有機JAS認証制度の中には、近隣の圃場や農業用水、航空防除に関する項目が見受けられるが、道路や民家については何ら触れられていないのが現状だ。周囲を走る道路の排気ガスや、日々の暮らしで漏れる生活の明かりが、植物にとっては少なくない影響を及ぼしているのだが、これは有機か非有機かでは読み切れない外部要因だともいえる。