「生命あふれる田んぼのお米」の小野寺實彦さん訪問レポート

プレマスタッフが「生命あふれる田んぼのお米」の生産地、宮城県大崎市に行ってきました。

生命あふれる田んぼが教えてくれたこと

「生命あふれる田んぼのお米」の小野寺實彦さん訪問レポート

晴れ渡る青空。今日も暑くなりそうだ…。
2012年、8月下旬。スタッフ岸は、宮城県大崎市にある
「生命あふれる田んぼのお米・雁音米(かりおんまい)」の生産地を訪れました。

このお米の生産者であり、雁音農産開発有限会社の
代表取締役・小野寺實彦さんにインタビューをさせていただくなかで
お聞きしたお話の数々。

自然との共生のお話をはじめ、子育て、教育の在り方、人と人との絆、
日本人の潜在的な記憶や能力、情緒や感謝の心…。
「いかに田んぼから学ぶことが多いか」に驚かされました。

田んぼはただ単にお米がとれるというだけの無機的な場ではなく、
すべての生命が関わり合い、共振している有機的な場であることに気づかされたのです。

お米の一粒一粒大きさにも驚かされます

一目瞭然!

農薬、化学肥料不使用。
雑草や害虫にも負けず、不耕起栽培でたくましく育てられた稲です。
見てください、この違い。見てください、この生命力。
お米の一粒一粒大きさにも驚かされます。

たまたまの出会いが転機となる

たまたま知った勉強会で~不耕起栽培~

本:「不耕起でよみがえる」岩澤信夫著(創森社)
生命あふれる田んぼのお米といえば、「不耕起栽培」というのが大きな特徴かと思いますが、そもそも、この栽培法を始められたきっかけを教えてください。
実はこれは偶然でした。たまたま、仲間と二人で、不耕起栽培の農法で有名な岩澤信夫先生の勉強会に参加したんです。だいたい当時からすると、田んぼをそのままの状態で、田起こしもしないで稲を植えて収穫できるというのは、不思議中の不思議でした。けれども、勉強会に参加して、「これでもできそうだぞ」ということがわかりましたので、不耕起栽培専用の作付機をお借りして、田んぼの一角で試験栽培をしてみました。それがはじまりです。
今まででは考えられないような方法を取り入れることに、周囲の農家の方々やご家族からの反対はなかったのですか?
田起こししないで稲株の間に稲の苗を植えていくわけです。はじめはとてもみすぼらしくて、「こんなんじゃお米は穫れないからもう一度植え直せ」と、もう家族中大騒ぎ(笑)。でも、「全部の田んぼでやるわけではないから」と説得して栽培を続けたところ、秋には、見事にお米が収穫できたんです。ただ、そうなってくると根本的にコメ作りの見直しをせざるを得ませんでした。「お米はこうやって作るものだ」という従来の農家の常識を覆し、田起こしもしないで、いわばまったく非常識な方法でお米が実際に獲れたわけですから。そこから本気で不耕起栽培をはじめました。周りのみんなも事実を見てついてきてくれました。

雁が集まるようになったわけ

雁が集まるようになったわけ

雁が集まるようになったわけ

生命あふれる田んぼのお米と言えば、もう一つの大きな特徴として、冬に雁が飛来する田んぼとして有名ですが、田んぼに雁が飛来するようになったきっかけを教えてください。
20年ぐらい前のこと、ちょうど不耕起栽培を取り入れた矢先でした。わたしたちのところに、「日本の雁を保護する会」という会の方がいらして、「蕪栗沼(かぶくりぬま)※に雁が多く集まり、寝ぐらにしている。雁は、本来、日本全国に住んでいたのだが、現状、環境的に住める場所が少なくなってきている。ここは雁が飛来する最南端なので、なんとかここでくいとめたい。ここでもっと雁を増やして南に戻したいので協力してくれないか」と相談されたのが、まずはじめのきっかけです。
※平成17年にラムサール条約湿地登録された約150ヘクタールの面積を持つ低地性湿地の沼。宮城県仙台市の北北東、直線距離にして約46キロメートルのところに位置する。 詳しくはこちら

なぜ、小野寺さんのところへ依頼が来たのですか。
日本の雁を守る会の方々は、自然な状態が残っていて、周りに電柱がなく、広々とした場所にある田んぼを探していたそうです。わたしの田んぼは、不耕起栽培をし、農薬など化学的なものも使っていませんでしたから、田んぼは自然な状態でしたし、近くに電柱もありませんでしたから、その条件に合致しました。冬に今まで乾田にしていたところへ雁のために水を張ることになりました。

思わぬ効果で田んぼがどんどん肥沃に

思わぬ効果で田んぼがどんどん肥沃に

思わぬ効果で田んぼがどんどん肥沃に

依頼を受けて、田んぼに水を張り、湿地状態を作ったら、ほんとうに雁が来てくれたというわけですね。
そうなんです。ただ、一番初めに来るのはいつもハクチョウです。雁はとても用心深い鳥なので、ハクチョウが安心している様子を確認して、飛んできます。雁は田んぼで落ち穂を食べます。
このように、雁の保護活動の目的で、冬は通常、乾田にしておく田んぼにあえて水を張ったのですが、同時に、冬の間も田んぼに水を張ることで、微生物の働きが促進され、土地が肥えてくることもわかったんです。微生物が増えると、生き物がどんどん集まってきました。「田んぼは、生き物との関わりが深いんだ」ということをこのとき実感しました。
雁が田んぼに飛来してくれることの直接的なメリットはありますか。
凄くあります。雁がフンを落としていくことにより、土地がより肥沃になりました。フンはリン酸分が高いのです。実は、リン鉱石は、肥料の中で一番、値が張ります。しかしながら、雁は良質なリン酸分をこの田んぼに残していってくれます。はじめからそれを狙っていたわけではないのですが、結果として、ただ単に雁を保護する目的以外にも田んぼにとって大変素晴らしい効果をもたらしてくれました。
昔の水田は、冬場、どのような状態だったのでしょうか。
ほとんど湿地でした。しかし、だんだん量産することが目的になってくると、湿地の状況で農作業をするのでは、効率が悪い、機械も使えない、ということになってきました。機械がないころは牛馬を使ってやっていたのですが、やはり牛も馬も、湿地の中での作業は大変です。そこで、排水路を作って、水を抜き、農作業の効率を上げたんですね。

理に適った自然のシステム

自然のサイクルを考える

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何でも、「人間の都合」だけで物事を進めると、そのぶん、ひずみの生じることがありますね。
自然のサイクルを考えることなく、効率と量ばかりに専念してしまうとおかしなことになります。食糧増産運動からはじまった効率・量を追い求める風潮は、ずいぶん環境のことを置き去りにしてきました。ですから、そういう意味では、環境へのダメージがたくさんありました。
ただ、最近はずいぶん、「生物多様性」ということが言われるようになり、特に、このあたりでは、「生き物も大切にし、共生していかなければならない」という意識が浸透しています。要するに、わたしたち農家は、「お米を作るだけではなく、地域の環境も担っている大切な存在なんだ」という自分たちの重要な役割に気づいたんです。
農作業における「人間の都合」ということで言えば、「農薬・殺虫剤の使用」も挙げられるかと思いますが、それらの乱用は、やはり生態系の観点から言うと、非常にリスクがありますね。
例えば、殺虫剤を撒くと殺虫剤にとても弱いクモはすぐに死んでしまいます。田んぼからバリアがなくなって、無防備状態になります。そうするとウンカとかカメムシとか、いわゆる飛来性の害虫は1~2キロ先からここへ飛んできます。殺虫剤を撒いた後は大被害になることがあるんです。
ですから、それよりは「クモをいかに増やすか」を考えるほうが「はるかにいい」ということになります。

田んぼのにいる4種類のクモの棲み分け

田んぼにはどんなクモが生息しているのですか。
完全に田んぼの環境に適応したクモが、大きく分けて、4種類います。農家にとってはどれも非常に優れた益虫です。4種類というのは横網を張る「アシナガグモ」。縦網を張る「コガネグモ」。田んぼ周辺の土の上を徘徊して歩き、網は張らない「コモリグモ」。水の上を忍者のようにして移動する「ハシリグモ」。これらは、自分たちの食べ物、棲みかがかち合わないようになっています。
それぞれ、身体の構造も理に適っていて、横網を張る「アシナガグモ」は、その上に乗って進むため、網が沈まないように体が軽くて足が長い。縦網の「コガネグモ」は、アシナガグモよりは足が短く少し体が大きめだけれど、やはり網を張るので、そこそこ体が軽くて足が長い。コモリグモは、地上で虫を捕まえるために足が速くなくてはならないので、太くて短いんですよ。
きちんと棲み分けして、違う餌を取り、益虫として田んぼを守る役目を自然と果たしながら、しかも、自分の生き方に合わせて体も適合した形になっているんですね。自然って素晴らしいですね!
そうです、自然は大先生です。こういったクモなどは、人間の歴史より長く生きています。長きに渡り、自分の生きられる範囲で進化してきました。いろいろな種類がいることが生き延びるコツなんです。みんな同じだと喧嘩をし、淘汰されていきます。多様性がいかに大事かということがよくわかります。今の社会は一点集中、同じもので競争していますね。しかも、何で競争しているかと言えばお金です。
これからは、「競争」ではなく「共創」の時代ですよね。
そのとおりです。生命あふれる田んぼには、生命がたくさんあふれています。共生しています。自然のバランスと循環がそこにはあります。

画一的な取り組みのリスク

自然のバランスを考える時、環境保全における大切な視点の一つとして、その土地固有の生態系を壊さないという配慮が挙げられると思います。例えば、微生物ひとつとっても、東北に住んでいる微生物と沖縄に住んでいる微生物は違うわけですよね。
違いますね。だからその土地でいいからといってやみくもに他の土地へ持込みするというのはよくありません。微生物を培養しても、結局、その土地にとって一番有益なのは土着のものです。土着微生物を増やすことを考えなくてはいけないと思います。
.例えば、よく、企業の社会貢献の一環として、植林などがされますが、これは、ただ数を植えればいいわけではなく、やはりその土地に合った木を見極めて植えることが大切ですし、自然を取り戻すという趣旨で行われる、例えば、蛍の放流なども、同じ観点からみると、放流する種類や場所を選ぶ必要があるかと思います。
おっしゃるとおりです。その土地にないもの、ましてや外来のものを持ってきてしまうとものすごく危険です。だからいかにもともとそこに棲んでいる生き物を増やしていくかが重要なんです。
わたしたちは、自分たちの田んぼにいる生き物調査を長年にわたり大切にやってきています。その地域にどのような生き物がいて、どのような活動をしているかを調べること。これは、ものすごく大切なことなんですよ。ただ、ものすごい種類がいるので、農家がすべてその種類や生態を調べて把握するのは難しい。学者でも大変なぐらいですからね。

やっぱり稲作は月のリズムで

自然のサイクルという視点でいえば、昔は月の満ち欠け、すなわち太陰太陽暦で農業を営んでいたようですが、やはり、小野寺さんご自身は新月、満月を気にして農作業をされますか。
もちろんです。月の満ち欠けが記された暦を見ながら、種まきなり、田植えなり、収穫なりの作業時期を決めています。長年の経験から、実感として、その暦で作業したほうが格段にいいとわかっていますから。

大切なのはお米に生命エネルギーがあふれていること

あなたが〇〇博士

先ほど、小野寺さんの会社では、田んぼに棲む生き物のお勉強会を主催され、定期的に生産者の方々に集まっていただき、生き物調査をしていると聞きましたが、そのあたりのことについて、もう少し詳しく教えていただけますか。
この取り組みを続けて、かれこれ10年になります。160人ぐらいの農家さんが参加しています。生き物調査の勉強会では、実際に田んぼに出かけて行き、その地域で発見したものを調査用紙に記入していきます。
最近では、さらにもう一歩進めようと、「あなたの好きな生き物はなんですか」「あなたの水田周辺で守りたいものはなんですか」という2つの質問も設け、一個だけ「自分の好き」、あるいは「守りたいもの」を宣言していただくことにしました。そして、「その生き物だけは、あなたが先生になれるようこれから勉強してください」というお願いをしています。
とてもいいアイディアですね!ワクワクしますね。
そうでしょう!実はそこが大きな狙いでもあります。こうしているうちに自分の田んぼにどんどん愛着が湧いてくるんです。意識が一番大事。意識の問題です。お米さえ獲れればいいじゃダメなんです。どっちが得か損か、損得金銭勘定ではない、大切なものがあるのです。

土地を代々、感動をもって継承していく

一番大切なものを大切にすること、そしてそれを継承していくことの意味の深さを感じます。
「俺の田んぼは自然と共生している田んぼなんだよ、タニシだってカエルだって来る田んぼなんだよ」ということを、愛着と誇りを持って次世代に伝えていくことが大切なんです。ただ「お米の獲れる場所」と伝えるのとは全く違います。サッカーではないけれど、“同じ意識”で“みんなで取り組む”ことの先には、ほんとうに素晴らしい感動があるですよ。
共感や、共通意識が大切ですね。みんなが調和して豊かに生きていくために、何を大切にし、どう行動していくのかがすごく問われている時代のように思います。
そうなんです!

お米の生命エネルギーが大切なんです

大自然と調和し、想いをもって大切に育てられたお米というのは、生命エネルギーに満ち溢れていることが容易に想像できます。
特にわたしたち日本人の主食はお米ですし、基本的には毎日食べます。だから、言ってみれば、一番大事な食べ物なんです。ところが、外見でいうと、お米はお米なんですね。お米の持つ生命エネルギーまで気にしている人は全体から言えば、そこまで多くないでしょう。でも、同じお米の形をしているけれど、その中身の生命エネルギーというのはそれぞれ異なります。高ければ高いほど自分たちの身体に役に立つことは確かです。
一般的な傾向としては、どうしても、マークや認証でそのものの価値を評価されがちですが、単純に、JAS有機米の認定を受けたから生命エネルギーが高くて、受けていないものは低いという評価はできませんね。
生命エネルギーというのは数字では表すことができません。だから、基準は出せない。
けれども、自然豊かなところで作ったお米とそうでないものとでは、エネルギーが確実に違います。化学肥料を使わずに作られたJAS有機米であっても、どんな環境で育てられたのか。JAS有機米と一言で言っても、ひとくくりにできないものがあるんです。
以前取り組まれていたJAS有機米をお止めになった経緯も、その辺にありますか。
そうです。ただ、そうは言ってもなかなかそれを理解し評価してもらって値段を伴わせることは間違いなく難しいです。それでも、自分たちのスタンスとしては、「国が定めた政策に左右されることなく、一番大切なもの見据えて実践し、その素晴らしさをしっかり訴えていく」、という取り組みに変えました。
と言いますのも、JAS有機米の認定を受けながら、そのうちにさまざまな矛盾を感じるようになってしまったんです。有機の項目には、いかに自然と共生しているかという項目はありませんし…。 ですから、そういった認証ありきなものではなく、「田んぼに生きるたくさんの生命たちと共生した稲作り」を理念を掲げ、その理念を軸にお米作りをしています。
詳しくはこちら

自然に触れ記憶に残す

心を繋ぐ 心でわかる

自然との共生を理念に掲げ、想いをひとつに取り組むことはとても素晴らしいことだと感じます。自分たちで生き物調査をし、自分たちの豊かな田んぼへの愛着と感動が心の発動となって土を作り、稲が育つ。生命あふれる田んぼには、「赤とんぼ」や「夕焼け小焼け」などの童謡に感じるような情緒も溢れていると感じます。
みんなで想いを一つに共通の意識をもってやるということはものすごく意味があります。大切なんです。だから赤とんぼの詩などはとても大事なんですよ。童謡を通して情緒を感じる。日本人の想いをひとつにする力が童謡にはあります。
小野寺さんの不耕起栽培を見ていると、わたしはどうしても、子育てに重なります。不耕起栽培では、稲の生育がはじめはずいぶん遅いものの、ある時期から、一気にぐーんと育つと聞きました。生育が遅く見える時期は、実のところ、土の下で根がしっかり張っている時期なんですよね。それを子育てに置き換えて考えると、やはり、子どもが根を一生懸命張っている時に伸びろ伸びろと無理やり引っ張りあげてはいけないなと思います。この「子どもの力を信じてじっと待つ、見守る」ということが大切なのでしょうね。
今の教育に欠けているところはそこです。学力だけを見て、その子を評価してしまったり、親もそれだけを見て焦ってしまったりしがちです。しかし、知識を詰め込む前に、もっと実体験をもって、身に染みて感じることが大切です。自分で体験してわかることと、教えられて覚えるのとでは全く違います。われわれは、都会の人より恵まれていると感じることがあります。自然というものが目の前にある。親が知識的なことを指導しなくても、そこに連れて行って楽しく遊びながらのびのびと学び、育っていく。このような自然環境があることは幸せなことです。

自然に触れる環境教育

子どもたちへの環境教育を依頼されることはありますか。
毎年、5月に田植え体験で小学生や中学生がこの地域に来ます。グリーンツーリズム委員会という組織があって、民泊できるようになっています。150件ぐらい、受け入れ可能な民家があるんですよ。こちらから田植え体験の指導役として、出張することもあります。出張先は、千葉県の幼稚園だったり都内の小学校だったり。
小学生は、学校の校庭に田んぼを作って、土を入れ、苗を植えて育てます。毎年小学5年生が対象です。秋になると、稲を刈って、干します。生徒はすり鉢を持ってきて、すり鉢で玄米を作ります。出たもみ殻はみんなの分を集めてもみ殻かまどの燃料にし、ご飯を炊きます。また、自分たちで育てて収穫したお米は、わずかではありますが、自宅に持って帰って、自分の家のお米と混ぜて、家族と一緒に食べてもらいます。残った稲わらはそこで、編んでリースにします。
最初から最後まで、すべてが大切な体験ですね。
これは、「捨てるところがないんだよ。収穫したら、モミも藁もゴミになるものがなく全部利用するんだよ」ということを体験を通して伝えるのが目的です。「物を生産したらすべて使う。それがものを作ることの完成なんだ」ということを教えているんです。そのようにして収穫したお米を食べて、「おいしい」と味わうことも大切です。それが教育です。でもね、毎年、一番盛り上がるのは“おもちぺったんこ”。子どもたちにとっては一番楽しいようです(笑)。もみ殻かまどは、火力が強くて遠赤外線がよく出るので、格別にご飯がおいしく炊けます。震災のときは、我が家でもこのかまどが大活躍してくれました。電気が長い間止まってしまいましたから。

自然体験は道を切り拓く力に繋がる

子どもには、小さいころからできるだけ多くの自然体験をさせてあげたいですね。
子どもは自然の中で、いっぱい遊んで経験して、それを記憶に残すことが大切です。
大人になり、社会に出ると、さまざまな困難にぶつかります。そのときに小さいころの体験を思い出して、いろいろな考えを応用すると生きる道が開けてきます。生きる力です。学業だけでは絶対に開けません。子どものうちは、もちろん「何のために」なんて考えていませんし、考える必要もありませんが、大人になってから、子どもの頃の体験を思い出し、その気づきから問題を解決していくんです。
自然から学ぶことは多いですね。
大自然の中の生き物を見てもわかる通り、自分の得意なことや特徴を活かして生きています。みんな同じではダメなんです。大自然というのは、多様性に満ちています。これが通り一辺倒、単一であれば、お互いの存在そのものが難しくなります。教育の中に実体験をきちっと取り入れながら土台作りをすることが、今の教育に求められていると感じます。

想定外の事態

今までで一番苦労した放射能対策

今回の原発事故による放射能対策については大変なご苦労をされたことと思います。その辺のお話をお聞かせいただけますか。
今までで一番苦労したのがこのことです。そもそも、放射能についての知識は当初、ほとんどありませんでした。「自然界にも存在している」程度のものです。しかし、北海道にある息子の母校(大学)の先生が放射能について詳しい先生でしたので、息子や息子の嫁がその先生からいろいろなことを教えてもらい、対策を練ってくれました。その先生は、チェルノブイリの原発事故があったときから、その影響を一番近くで受けた北海道で、ずいぶん追跡調査をされていた方です。そのようなこともあり、放射能に対する詳しいことや対策をよくご存知でした。
【小野寺さんのメッセージより引用】
放射能対策については嫁のひかるが理系の才をいかんなく発揮し、震災当初から様々な文献を調べ上げ毎晩のように討論し、震災後たったひと月で、農産物の中長期的な放射能汚染経路の予測と作付方針の決定、放射性セシウムに対応した耕種的対策と肥料設計およびモニタリング計画、天然除染資材の手配、農家や企業向けの勉強会資料まで仕上げてくれました。
長男の皇貴は小野寺家を支えながらも組織全体の円滑な運営に専念し、社員のガソリンの確保に奔走しつつ、迅速な復旧のためのフォローを一手に引き受けてくれました。

具体的にはどのような対策をとられたのですか。
まずは、放射能がどの程度やってきたかを知ることが大事だということで、その数値の把握に努めました。
栽培上では、「とにかくお米にセシウムを吸わせない栽培をしなさい」という基本を北海道の先生から教わってきたので、まず、田起こしをし、深めに掘って、セシウムの希釈状態を作り、さらには、セシウム吸着物質であるゼオライトもしっかり混ぜました。事故が3月に起こって、田植えの時期は5月ですから、急きょ農家みんなで勉強会を開き、心ひとつに一丸となって、放射能対策に取り組みました。
【小野寺さんのメッセージより引用】
作付方針が決まりつつあるものの、苛烈な震災被害のさなかで労働負担も金銭負担もある放射能対策に生産者がついてきてくれるだろうかと不安を感じていたところ、生産者から「何か対策があるなら講じたい」「勉強会をしてほしい」という声があった時に、「よし、このチームならきっと乗り越えられる」と確信した次第です。

経験値から言えること

実際に、そのような取り組みをして、平成23年度の秋に獲れたお米の結果はどうだったのですか。
国は、出荷の基準を「20ベクレル以下」に設定しました。でも、20では意味がないと思いましたから、せめて半分で検査してほしいとお願いして、10ベクレルの限界値で検査してもらいました。その時点で、誰ひとり、限界値以上の人はいませんでした。この辺は汚染度自体も低いということがわかっています。
わたしたちが心配しているほど、セシウムはお米に移行しないことが経験値としてわかってきたというお話をよく耳にしますが、実際にいかがですか。
おっしゃるとおり、あまり移行しないことがわかってきました。セシウムは土壌に吸着しやすく、一度吸着してしまうと、遊離しにくい性質があります。実際の経験からもそのことがよくわかりました。遊離している状況だと稲がセシウムを吸いやすくなりますから、いかに土壌に吸着させてしまうか、ということを考えることが大切です。
他に注意を払っていることや取り組みはありますか。

平成23年の勉強会で、とにかく有機堆肥など田に入れるものはすべて放射能の検査証明書があるものだけとし、徹底してもらいました。また、わたしたちは、普段、不耕起栽培というやり方で、表面の5センチほどしか土を起こさないのですが、今年は、土を深く掘って、ゼオライトしっかり混ぜるよう伝えました。さらに、今までは、麦わらを田に戻してすきこんでいたものを、今回は、全部田から上げるように指導しました。百何十件もの農家をダメにするわけにはいきませんから、何をするにも必死でした。

>> 「生命あふれる田んぼのお米」に関する「放射能分析結果」はこちら

取材を終えて

2012年ロンドンオリンピックにみた日本人の得意技

2012年ロンドンオリンピックにみた日本人の得意技

今年2012年はロンドンオリンピックがあった年です。
小野寺さんは、今回のオリンピックを振り返り、こう話してくれました。
「日本人が集団で何かをするようになった原点はお米作りなんですよ。ルーツがそこあるんです。今回のオリンピックでは団体競技が目覚ましい活躍をしましたが、そのルーツは稲作にあります。“団体で力を合わせて何かをやる”、“それぞれの持ち場を守って、ひとつの力を発揮する”、というのはわれわれのDNAに組み込まれた日本ならではの得意技なんです。だから日本人はやはり、そういう得意を活かしてやっていけくのが一番いいと思うんですよ」。
言われてみれば「なるほど!」です。お米は古来より日本人の主食であっただけではなく、稲作という農の営みそのものも日本人の気質に深く影響していたのですね。

昨年、10月に小野寺さんからいただいたメッセージを読むと、まさに、今まで培ってきた生産者の皆さんの強い結束力、チームの底力をみる内容でした。今までのお米作りを通して築き上げてきたあらゆる経験と人と人の信頼、絆の集大成が、とてつもなく大きな災害を前に力を発揮したことがよくわかります。思いもよらぬ不測の事態にも仲間同士で支え合い、力強く、迅速に乗り越えてこられたことに、心打たれるばかりか力をもらいました。

非常に困難な中にあっても、仲間同士が支え合い、ひとりひとりが自分の職務を全しようとする姿勢…

【小野寺さんのメッセージより・一部抜粋】
社員は、地震で家が倒壊した者も津波で家が浸水した者も皆、震災当初から出社し、業務の復旧に全力を注ぎました。まるで賽の河原のように、余震で復旧作業がふりだしに戻ることもありましたが、皆、折れる心を支えあい、よく家庭を守り家族を守りながら、常に己の職務を全うしてくれました。

自分を助けてくれたのは、まさに「自分自身の生き方」そのものなんだという気づき…

【小野寺さんのメッセージより・一部抜粋】
そんな災害の中で、我々が最も痛感したことは、「まず自分の身は自分で守るしかない」ということでした。マニュアルもシステムも、それを上回る災害の前には極めて無意味であり、そのような状況の中で自分を助けてくれたのは、まさに「自分自身の生き方」そのものでした。震災時、これまで培ってきた循環型農業の理念や技術や人間関係は、大いに私たちを助けてくれました。有機農業の技術と科学分析力は放射能対策に大いに役立ち、家畜の飼料の自給化と耕畜の連携は家畜の命を守りました。

人と人、自然と人との絆・・・

【小野寺さんのメッセージより・一部抜粋】
これまで大切に積み上げてきた一つ一つが大きな力となって、まるで奇跡のように自分たちを救いあげてくれたことに、大変な感謝と感動を覚えずにはいられません。今年のお米は、人と人との絆、そして自然と人との絆が「結実」したような、そんな気がいたします。

努力とチームの結束力で最善を尽くして創り上げたお米・・・

【小野寺さんのメッセージより・一部抜粋】
「不検出だから食べて下さい」などと不名誉なことは言いません。私たちの気持ちをしっかりと味わっていただけるよう、最善を尽くしたお米です。ご家族でお腹いっぱい召し上がってください。私たちも、皆さんのお気持ちに心から感謝し、今、自分が支えられているという力強い実感を今度は皆様にお返しできるよう、スタッフ一同、一丸となって努力してまいります。 今後とも、末永くお付き合いくださいますよう心よりお願い申し上げます。

自分を助けてくれたのは “自分自身の生き方”そのものでした

自分を助けてくれたのは “自分自身の生き方”そのものでした

今、社会はめまぐるしい変化と共に、情報は氾濫し、わたしたちが直面する問題、課題は複雑化しています。 こういった混迷の時代を乗り切り、より良い未来を切り拓いていくためには、広い視野から問題を俯瞰し、問題の本質を素早く見極め、行動していく力が必要です。知識偏重の頭でっかちな視点からでは決して生まれ得ない未来です。問題がたとえ複雑、難解であったとしても、簡単には諦めずに、さまざまな角度からその問題の解決を試みる。そのプロセスから気づきを得て最適解を導き出す。そういったたくましさ、多様なものの見方がいま私たちに求められているのではないでしょうか。

今回、小野寺さんや小野寺さん率いる農家の皆さんたちは、長きに渡り積み上げてきたさまざまな経験と結束の力で、予想だにしなかった困難な問題に立ち向かい、大きく乗り越えられました。常に本質に目を向け、心ひとつに、取り組んでこられた皆さんだからこそ、これだけのスピードをもって成し得たことだと思います。先にご紹介した「自分を助けてくれたのは、まさに“自分自身の生き方”そのものでした」という小野寺さんの一言には、ぐっと胸に迫るものがありました。

生命あふれる田んぼが教えてくれたこと

生命あふれる田んぼが教えてくれたこと

今回の取材を通して、たくさんの気づきをいただきました。そして、あらためて、大自然の恩恵に感謝しました。 「多様性」は多くの可能性を生み出し、地球をより美しく豊かにすること。幼少期の自然体験の大切さ。本質的な問題解決の糸口は、つまるところ、「人の意識・共感・感動」にあることを、小野寺さんのお話をお聞きする中で、特に強く感じました。

ぜひ、「生命あふれる田んぼのお米」を育む豊かな自然や、お米を作ってくださる方々の心に想いを馳せながら、「生命あふれる田んぼのお米」を召し上がってみてください。一粒一粒の中に、水、空気、太陽、土の恵みをはじめ、生き物たちのハーモニーやそれに携わる方々の想いがいっぱい詰まっています。このエネルギーは決して数値で測れるものではありませんが、皆さんのおなかも、心もいっぱいに満たしてくれるに違いありません。みなさんの「おいしい!」がバロメーターです。

貴重な体験がまた一つ増えたことを大変幸せに思います。お忙しい中、丸一日スケジュールを空けて取材に応じてくださった小野寺實彦さんやご協力いただいたご家族の皆さん、そしてご同行くださったスカイフードの羽田野宗紀さんに心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

プレマスタッフ 岸 真規子

「「生命あふれる田んぼのお米」食べてケロ。おいしいよ~!

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