ココナッツで豊かな未来を実現したい
cocowell代表の水谷裕社長に、フィリピンのこと、ココナッツのこと、ココウェルのことを取材しました
ココナッツ専門店「ココウェル」レポート
水井社長にお話をうかがいました
「ローフードのご要望が増えてきているので、非加熱のココナッツオイルを探しているんですが、なかなか良いものがないんですよね」。そんな私のひと言を拾ってくださったのは、なにを隠そう、フィリピンでパパイヤ発酵食品「バイオノーマライザー」を製造している三旺インターナショナルの前田社長でした。前田社長には弊社の福島支援活動にも多大なるご理解・ご協力をいただいていて、様々な方面でともに取り組ませていただく機会も多いので、つい何でも気軽に相談してしまうのです。
「ココナッツだったら、すごくいい青年が大阪にいますよ」
ナイスガイですか。それもお隣の大阪に。明日にでも行ってきますよ、私! というわけで、絶大なる信頼をおく前田社長のお墨付きですからと、事前リサーチもそこそこに、大阪は天満橋にあるココナッツ専門店「ココウェル」さんに向かいました。どしゃぶりの雨に遭遇して、かなりびしょ濡れ状態の私をあたたかく迎えてくださったのは、見た目も立ち振る舞いも、そしてハートもまさしくナイスガイな水井裕社長。
ココウェル代表の水井裕さん。単にココナッ
ツ製品を販売するだけでなく、フィリピンの
未来を見据えた活動をしています
なんでも、環境関係の勉強をするためにフィリピンに留学したことがきっかけで、高品質のココナッツを日本に紹介することを通じて、現地の貧困問題に取り組む決意をされたのだそうですが、その詳しい経緯やこれからの展望など、ココウェルのココナッツ製品の特徴なども織り交ぜながらいろんなお話をうかがってきました。
初めてフィリピンを訪問したときから、現在のような関わり方をするという予測はあったのですか。
大阪は天満橋駅から徒歩数分のところにある
ココナッツ専門店ココウェルのオフィス。
ショールームも併設しています
いえいえ、まったく想像していませんでしたよ(笑)。
僕は、大学を卒業してから環境関係の専門学校に行ったんです。大学では全然違うことを学んでいたんですが、環境のことを学びたいなと思って。
きっかけといえば、僕はボーイスカウトに入っていたので、自然の豊かなところに出かけたり、環境問題に触れる機会が子どもの頃からあったこと、それからちょうど、レイチェル・カーソンの遺作「センス・オブ・ワンダー」を読んだこと。そして、僕が大学生のときにCOP3で京都議定書が採択されたことでしょうか。
大学の授業の一環だったんですが、COP3の開催に先だって、学生たちが半年くらいかけて事前調査をした末に、各国の代表になりきって削減率を何パーセントにするかなどといったことをシュミレートする模擬会議をすることになったんです。
アメリカとか日本といった先進国の重要なポジションには上級生たちがつきました。3回生だった僕はフィリピン大統領の役が与えられ、途上国の立場から環境問題を考えることになりました。振り返ってみると、そのときからなにかしらの縁はあったのかもしれませんね。
とはいっても、フィリピンに行ったのはその影響ではありません。専門学校の長期休みを利用して、3ヶ月間、海外の大学で環境を学ぼうと思ったんですが、僕は英語も勉強していたので、近場の英語圏という理由からフィリピンを留学先に選んだんです。
そして、実際にフィリピンに行ってみたら、環境ももちろんだけど貧困の問題を目の当たりにすることになった・・・
「スモーキーマウンテン」には、貧困層の
人々が住んでいます。ごみが自然発火して
常に煙を上げていることから名づけられました
フィリピンの大学では環境科学という学部に入り、授業の一環で、いろんな場所を見てまわりました。マニラのスモーキーマウンテンと呼ばれるゴミ山にも行ってきました。
フィリピンの地方はほんとうに貧しくて、多くの人たちが仕事を求めて首都マニラに集まってきます。ところがマニラの失業率は50%、地方出身者の多くは仕事にありつけなくて、路上生活やゴミ山での生活を余儀なくされ、売春その他の犯罪行為に走ってしまうケースも少なくありません。
「このフィリピンで、何か自分にできることはないのか」
そんな思いを抱きながら、日本に戻ってきましたが、たまたまお土産に持たせてもらったココナッツオイルがきっかけで、帰国後すぐにココナッツを調べ始めたんです。現地でもココナッツジュースが好きでよく飲んでいましたし(笑)。
調べてみると、ココナッツってほんとうにおもしろい植物だなぁと関心することばかりでした。植物全体がいろんなものに使えて捨てるところがない。環境にやさしい資源だし、何よりも地元の人たちの生活に深く根ざしている。こんな植物は滅多にないのではないでしょうか。昔からココナッツは「tree of life」生活の木あるいは生命の樹と呼ばれていますが、ほんとうにその通りだと思います。
パームの実収穫後24時間以内に搾らないと
品質が落ちるので、大規模農園に搾油工場を
併設するため広大な森林が伐採される
マレーシアでは、パームオイル産業が森林破壊につながっているとして環境問題になってますが、ココナッツのプランテーションではそういった問題は起こっていません。高く伸びたココナッツの木の下でほかの植物も栽培されていて、とても効率的な農業が行われています。
フィリピン政府もココナッツの事業化を推進しているそうですが、そんななかで、ココウェルの役割を聞かせてください。
根本から解決するためには、地方をいかに元気にするかを具体的に検討することが重要で、地方の活性化はフィリピン全体で取り組むべき問題といえるでしょう。だからこそ、政府はココナッツに注目していて、ココナッツを軸とした様々なプロジェクトを計画・実行しています。僕たちココウェルもそういった取り組みに協力しています。
地方のココナッツ農家は、収穫したココナッツの実からコプラ(ココヤシの果実の胚乳を乾燥したもの)を作ります。それらは資本力のある企業が安く買い叩いていくので、彼らはまったく採算の合わない農業を強いられています。そこで、もう少し商品力のあるものを作っていくためのサポートをしているんです。
バージンココナッツオイルの作り方の指導もそのひとつです。ココナッツオイルそのものとして製品化するものは、エコサート認証のある大きな工場で作らせていますが、石けんやリップクリームなどの原料に使うオイルは、そういった小さな農家が作るものを積極的に使用しています。
ココナッツシュガーも以前は乾燥が不十分で、ダマになりがちだったんですが、最近は質がグッとよくなりました。サラサラとして扱いやすいものが作れるようになったんです。
ココナッツオイルの善し悪しは何で判断するのですか。
ココナッツオイルの品質は、香りをかげば分かるんですよ。水分量をどれだけ減らせるかが重要で、それによって香りにも大きな違いが出てくるんです。
「ココナッツの甘ったるい香りが苦手」という人は少なくありません。人工香料とかでココナッツの香りが苦手になる人も多いですしね。でも最近は、ココウェルのオイルに関するご意見を聞くたびに、「いままでは質のよくないものを使ってたのかな」と感じています。皆さん、「ココナッツのにおいは嫌いだったけど、これはいいね」とおっしゃるんですよ。
ちなみにココナッツオイルは酸化しづらいので、開封前後ともに品質保持期限は2年としています。かなり長く保管していたり、保管状況が好ましくなかった場合など、品質が心配なときは、臭いをかいでみてください。万が一酸っぱい臭いがしたら、一部の不飽和の部分が酸化してきている証拠です。
ココナッツ専門店なので、ココナッツの
ことならなんでも分かるだろうと、大学の
先生からも問い合わせがあるんですよ(笑)
作り方はおもにふたつあります。白い果肉部分を圧搾して抽出した液体を発酵させると、上層はミルク成分、下層は油分と分離してきます。その油分のみを取り出す方法がひとつ目のやり方です。そしてもうひとつは、圧搾した液体を遠心分離機にかけて、ミルクと油分に分ける方法です。
たいていは発酵させる方法で作られますが、発酵の際の時間と温度の管理次第で品質が大きく変わってきます。ラウリン酸などの栄養成分は、温度をあげると壊れてしまうので、僕たちは、40度前後の安定した温度でじっくりと発酵させています。その仕込み具合が香りにも分子の大きさにも影響してきます。もちろん、分子が細かいほうが浸透がよいので、高品質と言えます。
ちなみに後者の遠心分離のほうが熱をまったく加えないのでいいという方もいらっしゃるんですけど、発酵製法に比べてコストがかかります。そして、ここが重要なんですが、どうやらラウリル酸が壊れてしまうようなんです。
あと、あのココナッツ特有の香りは発酵によって引き出されます。発酵させない遠心分離だと香りはミルクと一緒に分離されるので残りません。ところが、遠心分離のオイルの中に独特の臭いが微妙に残って、これが結構日本人には馴染みにくい臭いなんです。食用にも化粧品にも、「ちょっと使いにくいな」という印象を僕は抱いています。
アジアのスーパーなどで普通に売られている食用のココナッツオイルは、どういったものかご存じですか。
ココナッツオイルには精製されたものとされていないものがありますが、メーカーが大量生産しているものは、溶剤を使って精製されたココナッツオイルです。溶剤は最終的に抜かれますが、若干は製品に残ってしまいますね。
農家が作るコプラは、精製ココナッツオイルの原料になります。二ヶ月くらい天日で乾燥させるのですが、衛生状態は決してよいものとは言えませんから、溶剤を使って高温で精製し、不純物を取り除きます。混ざり気のない安定したココナッツオイルにはなりますが、せっかくの栄養素も除去されてしまいます。
ココウェルも精製オイルを作っています。缶に入ったタイプが精製オイルですが、溶剤ではなく活性炭を使って不純物を除去しています。ちなみに精製されたココナッツオイルは、ココナッツ独特の甘い香りがありません。
大人気のオーガニックバージンココナッツ
オイルはスキンケア用ですが、中身は食用
のエキストラバージンと同じ
甘い香りがするのは、バージンココナッツオイルです。低温で圧搾した後、精製もしていないので栄養素が壊れずに残っています。もちろん不純物に関しては、ろ過して取り除くプロセスがあります。
ココナッツの実から白い果肉を取り出したらその場で搾る必要がありますし、大きな工場のような流れ作業で作ることもできないので、どうしてもコストはかかります。そのため、一般的によく売られているココナッツオイルは精製された安価なものなんです。
ちなみに、ココウェルの食用オイル(エキストラバージンココナッツオイル)と化粧品用オイル(オーガニックバージンココナッツオイル)は、法律を踏まえて別容器で製品化しましたが、中身はまったく同じものなんです。お客様にはその点じょうずにご利用いただければと思います。
日本で人気の高いアイテムはどれでしょう。
やっぱりなんといってもココナッツオイルですね。スキンケア用も、食用も。食用に関しては、用途に応じてお選びいただいているようです。低温圧搾のエキストラバージンココナッツオイルはとても高い評価をいただいていますが、揚げ物や炒め物には缶に入ったプレミアムがよく使われています。
フィリピン訪問は年に4~5回。農家さんの
指導や品質管理のほか、新商品作りための
アイデア探しも重要な目的のひとつです
ココナッツシュガーも人気があります。ココナッツシュガーは低GIで、血糖値があがりにくいんです。それなりの価格にはなりますが、調味料ってそんなにたくさん使うものではないので、どうせつかうなら健康に配慮したものを、ということで選んでいただいています。
見た目は黒砂糖に似ていますが、黒糖のようなクセがなくて使いやすいです。サラサラしていて、砂糖と同じ分量で使えます。
ちょっと珍しいところでは、ココナッツファイバーですね。果肉を搾った後の搾りカスですが、繊維のかたまりで、水分を含んですごく膨らむので満腹感が得られます。食物繊維の補給には最適です。そのまま食べるほかに、お料理に加えたり、ヨーグルトにかけたりといった方もいらっしゃいます。ココナッツっぽい香りはほんのかすかに残っています。
それから、「ココソープ」も最近かなり好評です。バージンココナッツオイルを使って、コールドプロセス製法で作った石けんです。リップクリームも、もともと現地で作られていたものを、製法や配合の割合などを見直しながら改良を重ねて、日本で販売できる品質のオリジナル製品に仕上げました。
フィリピンの人々の暮らしに根づくココナッ
ツ。オイルやミルクをとるだけでなく、
繊維からは衣服やタワシなども作られます
化粧品も食品も、現地にはおもしろい素材もたくさんありますし、まだまだやりたいことがいっぱいです。
ココナッツが専門ですから、ココナッツオイルの良さをいかに製品に落とし込んで、皆さんにご紹介していくかをいつも考えています。日本の評価基準と照らし合わせながらですし、余分なものは一切使いたくない、入れたくないというこだわりもあるので、製品作りには時間がかかります。一年にひとつリリースできればいいほうかな、といったところです。
少しずつではありますが、順次皆さんにご紹介していければと思いますので、どうぞ末長くよろしくお願いいたします。
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