身近にひそむPFAS汚染が、人体や環境にもたらす影響
対処しないとどうなる?
調理器具や飲み水にも含まれる、
PFASのリスクをまとめました
環境中でほとんど分解されないことから
「永遠の化学物質」といわれるPFAS(有機フッ素化合物)。
水や油をはじく性質があり、多くの製品に使われてきましたが、
人体や環境に悪影響を及ぼすことが指摘され、世界中で規制が進んでいます。
日本ではどうでしょう。
昨今、全国各地の水源で高濃度の
PFASが検出されていることから、調査や研究が始まったばかりです。
もし毎日使う調理器具や飲料水などから、
少しずつ体内に取り入れているとしたら?
まずはそのリスクを知り、
あなたや家族の健康を守るための製品選びに役立てていきましょう。
PFASとは
「PFAS(ピーファス)」とは、人工的に作られた「有機フッ素化合物」の総称で、1万以上もの種類があります。熱に強く、水や油をはじく性質があるため、戦後、さまざまな産業で利用されてきました。
PFASのうち代表的な物質は「PFOS(ピーフォス)」と「PFOA(ピーフォア)」です。これらは、産業利用に適している反面、自然界に放出されるとほとんど分解されないまま残り、生物に取り込まれると体内に蓄積しやすいことから、すでに国際的に使用が禁止・規制されています。
また、その代替品として使われてきた「PFHxS(ピーエフヘキサエス)」などの危険性も明らかになっており、規制が進んでいます(※1)。これら3物質は、特定PFASとされています(※2)。
※1:2024年、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)の第一種特定化学物質に「PFHxS」が追加されました。
※2:残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)で、難分解性、高蓄積性、長距離移動性及び人や生物への有害性を持つものとして規制された化学物質。
主な使用例
- 日用品
- フライパンなどのフッ素樹脂(テフロン)加工、食品の包み紙、繊維の保護コーティング剤、撥水スプレー、化粧品、塗料、界面活性剤など
- 工業製品
- 泡消火剤、撥水・撥油剤、航空機用作動油など
PFASのなにが問題なの?
PFASは、環境中できわめて分解されにくいため「永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)」と呼ばれています。人の健康への悪影響や、野生生物、環境汚染など、地球規模での汚染が明らかになったことから、PFOSとPFOAは、2009年から順次、国連で製造、使用、輸出することが原則禁止されました。この条約には、日本を含む約180ヶ国が批准しています。
また、現在、日本でも特定PFASへの規制がおこなわれています。2010年には「化学物質の審査および製造等の規制に関する法律(化審法)」により、PFOSの製造や輸入、製品への使用が禁止されました。また、PFOAは2019年にPOPs条約で原則禁止とされ、国内でも2021年から製造や輸入、製品への使用が禁止されています。また、PFHxSも、2024年2月から規制対象となりました。
このように、有害なPFASは世界的に廃絶にする方針が進んでいます。しかし、これまでに工場や基地などから排出された物質は蓄積しているため、これからもその影響が心配されるのです。また、調理器具をはじめとする様々な製品には、PFOSやPFOAの代替物質が使われている可能性があり、まだ研究や調査が進んでいない物質についても、今後リスクが明らかになることも否定できません。
健康への影響
PFASは、くっつかないフライパンや鍋、ハンバーガーや菓子などの油をはじく包装紙、衣類の防水処理、デンタルフロスなど、私たちが日常的に使用する様々な生活用品にも使われています。そのほか、泡消化剤や、金属加工、有機フッ素農薬など、今も多くの種類が開発されています。このように、私たちはPFASを含む製品や環境中から、直接的・間接的にPFASを取り込んでいるのです。
PFASの使用例
- ファストフードの容器包装
- 化粧品
- 消化剤
- 防水加工の衣類
- カーペット
- 防汚ソファや家具
- フッ素樹脂加工のフライパン
- 塗料
- 防虫剤
PFASの影響で一番気になるのは、やはり健康への影響ではないでしょうか。PFASは、一度体内に取り込まれれば体内に長く残ります。国立がん研究機関はPFOAを「発がんの可能性がある物質」に分類しています(※3)。
PFASのリスクを早くから研究してきたアメリカでは、PFOSやPFOAを製造・使用してきた工場・施設の周辺に住む住民や自治体による、工場・施設の運営会社を相手取った訴訟が多数提起されています。
現段階では、PFASと病気との関連が指摘されていながら、まだ科学的なエビデンスは十分ではありません。そうしたなか、2022年にアメリカの学術機関である全米アカデミーがまとめた研究結果のガイダンスでは、次のような健康への影響が示されています(※4)。
- 動脈硬化などの原因となる脂質異常症
- 腎臓がん
- 抗体反応の低下(ワクチン接種による抗体ができにくい)
- 乳児・胎児 の成長・発達への影響
さらに、乳がん、肝機能障害、妊娠高血圧症 、精巣がん、甲状腺疾患または機能障害、潰瘍性大腸炎などについても、関連が示唆されるとしています。
また、血液中のPFASの濃度と健康リスクとの関連については、1ミリリットルあたり20ナノグラム(ナノは10億分の1)を超える状態が続くと健康へのリスクが高く、2ナノグラム未満だとリスクは低いということです(PFOSとPFOAを含む7種類のPFASの合計)。
日本では、2020年4月に、水道水と河川や地下水について、PFOSと先述のPFOAを合わせて「1リットルあたり50ナノグラム以下」という目安が設けられました。しかし、昨今、国内の一部地域では、飲料水や土壌から高濃度のPFASの値が検出されるなど、PFASのリスクについての調査や対策は始まったばかりです。私たちは、汚染された地下水や食品、日用品などから多くのPFASを摂取していることが予測されますが、実際、どれほど健康への影響があるのかは未知数です。どれほどの影響があるのかが明確にわからないため、予測されるリスクを先取りして対策していくのがよいでしょう。
※3 内閣府 食品安全委員会 https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/pfoa_and_pfos_faq.html
※4 National Academies https://nap.nationalacademies.org/resource/26156/interactive/
日本の深刻なPFAS汚染と後手の対策
実際、特定PFAS以外にも、毒性があるかもしれないPFASは身近に多く存在しています。環境省が定期的におこなっている「化学物質の人へのばく露量モニタリング調査(2018〜)では、日本人は複数のPFASにばく露していることが明らかになっています。
欧米諸国では、すべてのPFASを原則禁止しているEUをはじめ、米国連邦政府は水道水に一定の基準を設けているほか州政府レベルでも様々な対策がとられていること、オーストラリアでは飲料水や土壌、生態系などに関して削減のための取り組みをおこなっているなど、PFASに関する規制が進んでいます。
一方、日本は基本的に国際条約に従って規制が実施されますが、率先して規制することはなく、諸外国よりも後手になることが多いため、その間の健康被害が放置される可能性があります。
近年、水源の深刻なPFAS汚染が問題になっています。2019年に環境省が実施した水質調査では、全国各地でPFOS、PFOAが検出されただけでなく、千葉県、東京都、大阪、沖縄などのいくつかの地点では指針値を超え、高濃度に検出されました。現時点では、国の規制を待っている余裕はなく、私たち一人ひとりが対処していくほかないのです。
PFASへのばく露を避けるために
フッ素樹脂加工のフライパンや鍋を避ける
フッ素樹脂加工のフライパンが危険だと言われるのは、高温で加熱した場合の有害物質の放出です。正しい使い方をすればリスクは減りますが、いつも使い方に気を付けるのはなかなか難しいもの。
また、使っているうちにコーティングがはがれて、料理とともに体内に摂りこまれる可能性もあります。フッ素樹脂自体の危険性は低いといわれますが、食べ物ではないものが知らず知らずのうちに体内に摂りこまれるのは避けたいものです。
また、環境に対する意識も忘れないようにするべきでしょう。調理器具は、ステンレス製や鉄製など、PFASフリーのものを使いましょう。
水道水は浄水する
PFASに汚染された水道水の対策についてはどうでしょう。PFASは、煮沸消毒などの処理で消失することはなく、むしろ濃縮されることでPFASの濃度は高まります。
そこで、PFAS除去能力のある浄水器で濾過して除去する必要があります。
ただし、日本にはPFAS除去に関する規格や基準がないため、信頼できるメーカーでPFAS除去できるかを確かめて購入したいものです。
そのほか
- ⚫︎ハンバーガーやピザなど、ファストフードや惣菜の防水・防油加工された容器や包装紙にもPFASが使われています。ファストフードの利用を控えましょう。
- ⚫︎防汚・防水加工されたカーペットや布製品の上で過ごすとPFASにばく露します。特に体の小さい子どもはできる限り触れさせないようにしましょう。
- ⚫︎日焼け止めやファンデーション、シェービングクリームなどの化粧品の多くにPFASが使われています。経皮吸収されるPFASは、口から入るのと同じように健康に害がある恐れがあります。