心地よい衣をまとう~『葛衣(くずごろも)』
Natural Style(ナチュラルスタイル)から自然の恵みを余すことなく暮らしに活かす、未来に伝える衣類のかたち
サラリ、快適、軽々と。
軽量な和紙糸を有機綿と混紡し、
さらり、ふんわり、私が喜ぶ「葛衣」が出来ました。
葛が持つ、天然の抗菌力。
和紙糸が持つ、通気性や吸湿性。
有機綿が持つ、しっとりとした柔らかさ。
いつでも、どこでも。
一日中、一緒に居たくなる
新しい葛のカタチです。
「葛」をご存じですか?
ハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ・・・。
秋の七草のひとつとしても知られる「葛(くず)」は、夏の終わりから秋にかけて品の良い赤紫色の花をつけるマメ科のつる性多年草です。
葛には、余すところがありません。日本では古くから、太った根から取れるでんぷんを「葛粉」として、また「葛根(かっこん)」と呼ばれる漢方薬として、葉や花もまた薬やハーブとして、また家畜の飼料として暮らしのなかで使い続けてきました。
ですがその反面、想像を絶するような生命力と繁殖力の強さから、有害雑草に指定され、現在では自治体や国が駆除に奔走しています。
グリーンモンスターとも呼ばれる葛は一旦繁殖を始めると、何メーターもあるような背の高い樹にも、つるを伸ばし葉を広げながらぐるぐると巻き付き伸長し、太陽を浴びて根を太らせ、森を一個まるごと飲み込むような勢いで成長し、時には樹を枯らしてしまいます。
電柱や鉄塔、送電線も例外ではありません。樹林や河川敷、道路、鉄道などのあらゆる場所に繁茂し、いちど葛の侵入を許すと、根絶しない限りはその勢いは止まらず、春夏の温かな季節に一気に成長し周囲を覆いつくします。
これが時には停電や漏電、地すべりなどの災害の原因になることもあり、深刻な被害を引き起こしています。一説では、葛による経済被害は年間500億を超えるともいわれます。
つるを布に~掛川葛布(カップ)
古代には、葛のつるからとった繊維で衣を織っていたといいます。日本最古の布のひとつに数えられる「葛布」は、朝廷で蹴鞠をする際の袴として用いられていたとされています。
また経糸の種類によって、仕事着や夏の朝廷着になったりと、身分を問わず使われていた布でもあったようです。
現代でも静岡県掛川では、特産品として鎌倉時代から製法を受け継いだ「カップ」と呼ばれる葛の布が織られています。葛のつるだけを集め、釜で煮立て、水にさらした後に発酵させて取り出した靭皮(じんぴ)繊維は、絹や麻や木綿を経糸に織り上げると独特な光沢が美しい布に仕上がります。
つるの採取から布に織り上げるまですべて手作業の掛川の葛布は、草履や帽子、日傘、ハンドバッグ、室内の調度品や内装の素材として愛用されています。
葛衣(くずごろも)~新しい涼をまとう
掛川の伝統工芸の「葛布(カップ)」とはまた異なった視点から、葛でんぷんを絞り出したあとの葛の根の繊維を使った新しい「葛の布」が奈良で生まれました。
奈良発、葛の根を使った新繊維
奈良の伝統工芸のひとつが、葛粉です。
葛粉をつくるもとが、葛の根に含まれるでんぷん質。九州や奈良の堀子さんたちが、葛の地上部が枯れ始める冬の間に、山に分け入り掘り出してくる自生の葛の根を、細かく砕き繊維状にほぐした後に、水に何度も晒して真っ白い葛粉が出来上がります。このときに大量に破棄されていた葛の根の繊維を、奈良の新しい繊維として活用しようと考え出された布が「葛衣」です。
粉砕された葛の根の繊維は、非常に細かくそのままでは布になりません。パウダー化した葛の根を和紙に漉き込み、その和紙を細く切って特殊な装置で撚りをかけ、綿と混紡して始めて糸になります。和紙の原料に使われるマニラ麻などの植物は、往々にして綿よりも繊維が長いこともあり、毛羽立ちが少なく、軽く通気性に優れています。
和紙糸の種類にもよりますが、重量は綿の3分の1程度です。近年「和紙布」という呼ばれ方で多くのひとの目に留まるようになりましたが、和紙を糸に撚る技術もまた、綿や絹が手に入りにくい地域で、伝統的に引き継がれてきた先人の智慧のひとつです。
暮らしの隣にあった葛。
和紙を糸に仕立てる先人の智慧。
自然から頂いたものを余すことなく使い切る敬意。
日本で脈々と受け継がれてきた技術や智慧に、私たちの「今」を掛け合わせたら、未来へ向けて発信する新しい「葛のかたち」が出来上がりました。綿花だけで撚った糸に比べ、和紙糸は軽量です。また通気性・吸湿性にも優れています。和紙糸が持つ特徴に加えて、「葛衣」には天然の葛が持つ抗菌力も加わりました。
また極力薬剤を使わずに紡績した有機綿花を使っているので、綿花の持つふんわりした柔らかさや綿花が持つ自然の油分、肌当たりの良さも生きています。
葛衣の特性
データが示す、抗菌力
「葛には抗菌作用がある」は、先人の知るところではありました。
だからこそ東京の小石川植物園でも、奈良の森野旧薬園でも葛が栽培されていたのでしょう。ひとびとの智慧と経験が盛りだくさんだった家庭のお手当てがうんと身近にあったころ、風邪のひきはじめに葛湯を飲むという習慣もあったと云われます。
また葛根(カッコン)、大棗(タイソウ)、麻黄(マオウ)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、生姜(ショウキョウ)の7種の漢方を配合した「葛根湯」は、今でもまだ現役の葛を使った風邪薬です。
葛粉をつくるのに、必要となるのが葛の根。
葛粉の原料になる葛のでんぷん質を絞り終えた根を粉砕し漉き込んだ和紙と有機綿花を撚り、織り上げた布が葛衣。
葛そのものの抗菌性とどのくらい関りがあるかどうかは別として、葛衣を現代的・化学的に分析すると抗菌活性値6.0という高い値が認められました。
通常、抗菌効果が認められるとされる値は、抗菌活性値2.0から3.0の間で、3.0を超えると強い効果が認められるとされています。衣類の基準では、抗菌活性値が2.2以上であれば「抗菌防臭」効果があるといえるものですので、6.0ある葛衣はびっくりの「抗菌防臭効果」がある布です。
足や身体が匂う原因は、さまざま。
決して一概ではありませんが、細菌の増殖もその原因のひとつです。
蒸れやすい場所、においが気になる場所には、さらっとした肌触りで、通気性も良く、抗菌性も高い葛衣をまとうのもひとつの選択肢になりえるのではと期待が持てます。
編み方で変わる着心地
葛和紙糸を使った「葛衣」は、葛和紙糸と有機綿糸の混紡割合によっても肌触りがかわりますが、編み方でも肌触りが変化します。
葛和紙フライス
フライス生地は、ふっくら肉厚で伸縮性が高いのが特徴です。
表面はさらさらした葛和紙糸の感覚で、肌に当たると有機綿のほんわりした温かさを感じます。
スラブ天竺
意図的に太い糸と細い糸を組み合わせて織り上げるスラブ天竺は、生地の表面には模様を入れたような凹凸があります。
無地なのに、角度によって表情が変わるのもお洒落です。横方向の伸縮性が高く、薄くて軽いのが特徴です。
また通気性の良さと、さらっとした軽い肌触りは、暑い夏には特にぴったりです。
パイル
生地の表面をループ状に編み込んでいるのがパイルです。タオル地もパイル編みですが、ループの長短や密度で触感は変化します。
靴下のパイル地は、タオルよりもループが密にあるのが特徴です。
葛和紙糸を混紡して織ったパイル地は、葛和紙糸のコシの強さとさらっとした肌触りを特にはっきりと感じられます。