天照ル君ノゴールデンシルク 開発者インタビュー
原料製造元のJTシルク江上裕人さんに、弊社代表の中川がタイにてインタビュー。
日本の養蚕、製糸技術をこの国で、
ほそぼそとでもいいから守りたい。
もしかすると、全く違う時代が
やってくるかもしれないから。
日本とタイをつなぐ黄金の繭TM-201
-
やっと、チェンマイまでやってくることができました、
羽田を出るときに、関東では何十年ぶりという大雪で、空港が孤立してしまいました。空港のコンクリートの床の上で36時間を過ごし、体調を崩してしまい、集中力に欠けていますが、どうぞお許しください。
-
そのような大変な状況にも関わらず、ここまでお越しいただきありがとうございます。ここ、チェンマイ近郊には私たちの試験農園があり、無農薬の桑園と蚕室があります。そして、実際に私たちの最大の特徴であるTM-201というシマシマ模様の蚕は、ここから2時間ほど移動したランプーン県トゥンフワチャン地域で、20軒ほどの養蚕家が育てています。ちょうど、オフシーズンですから、ぜひ、蚕が育った時期にもお越しいただきたいものです。
-
早速ですが、そのTM-201というお蚕さんについて教えて頂けますか?
-
TM-201は、昆虫領域でメンデルの法則(※1)を用いて、日本とタイの原種蚕を掛け合わせ、その法則を昆虫領域で初めて実証したことを起点として産まれたハイブリッド種(交雑品種)の後継です。この交配に死力したのが、外山亀太郎(※2)という実験遺伝学の先駆者でした。以降、タイと日本の蚕のすぐれた点を生かしたハイブリッドを作るための研究が続き、その完成形といえるのがTM-201です。
タイの原種に近い蚕(野蚕)は、その季候から猛烈な紫外線が降り注ぎ、自ら身を守るために紫外線防御能力が高い黄色をしているものが主流です。しかし、高温には強い反面、作り出す繭玉のサイズは小さく、あまり効率のよい品種ではありませんでした。
日本の野蚕はきわめて白い色の糸を大量に吐き、厚みのある、大きな繭を作ります。しかし、紫外線防御の力は強くなく、高温環境に対応しにくいという特徴があります。
この、両方の良い点を交配によって固定し、紫外線対応能力の高い黄金色を保ちながら、大きな繭を作る品種がTM-201だといえます。私たちは、この繭をここタイで育てることにしました。
※1 メンデルの法則:メンデルが1865年に発見した遺伝の法則。親の形質は遺伝子によってある規則性をもって子や孫に伝わるというもの。優性の法則・分離の法則・独立の法則の三つの法則からなる。優性の法則に関しては優劣関係のはっきりしないものが多いので、これを除く場合もある。(大辞林<三省堂>より)
※2 外山亀太郎:明治大正期の遺伝学者、蚕種改良家。蚕と蚕を交配によって掛け合わせることを繰り返し、昆虫におけるメンデルの法則を初めて証明した。
ゼロからはじまった、タイでの養蚕プロジェクト
-
しかし、どうしてタイで、ということになったのでしょうか。
-
実は、私がタイに渡って来るまで、雑貨貿易の仕事をしていた時期があります。また、別の5年間くらいは、私の父が経営する、世界中のシルクの原糸を買い付ける貿易の仕事にも従事しました。私はこのシルクに関係する5年間のうち、世界のシルクを産する20カ国以上を訪問し、世界のシルク事情について研究しました。
ご存じのように、中国産のシルクは徹底的な低価格で、世界のシルク市場を破壊してしまいました。日本でも、韓国でも台湾でも、養蚕を行うところはほとんどといっていいほど壊滅的な状態です。品質よりも愛情よりも丁寧さよりも、価格が、全てを圧倒してしまったのです。
ほぼ、壊滅し尽くしたところで、中国産のシルク価格は上昇に転じ、質は高くないが規格が揃っている工業的な繭ですら、騰がってきました。
-
それは、Amazonが膨大な赤字を出してでも、徹底した安値で中小企業、日本企業をなぎ倒し、なぎ倒したところで日本から利益を吸い尽くす、というモデルにそっくりですね。
-
そうやって、中国産にやられている間に、日本のすぐれた養蚕、製糸技術がどんどん消滅しています。日本人がかつて作ってきた紡績機や養蚕用具の卓越した技術、さらには蚕種(蚕の卵)の保存も、養蚕関係社の高齢化に伴って、非常に危ういものになってきたのです。一度失われた種や技術は取り返しようがありません。そこで私は、もともと養蚕の歴史があり、ハイブリッド種の片方にもなっているタイで養蚕をし、養蚕技術の保全、そして最初は繊維製品を作ろうと思っていましたので、紡績、織りの技術まで含めて、日本のすぐれた技術を保全しようと考えたのです。
-
なるほど、素晴らしいお気持ちですね。でも、タイでゼロから日本風の養蚕や紡績、織物技術を始めるとなると、ものすごいご苦労があったのではないでしょうか。
-
私は、最初軽く考えていました。日本人なら「今まで100バーツにしかならなかった繭を、200バーツで必ず買い上げるから、ちょっと難しいけどこの品種を育ててください」と言えば、みんな喜んで、苦労も顧みず努力するだろう、と考えますよね? でも、この国は「サバーイ、サバーイ(気持ちいい!)」の国なのです。
いざ、養蚕を既にやっている農家を尋ね、卵を渡して養蚕を始めると、ハイブリッド種ならではの難しさがあり、「おまえの持ってきた卵はすぐ死ぬじゃないか」「こんなのやってられない」とすぐに頓挫してしまいました。
当初、養蚕をやっていて桑も既にあるタイの東北地方(イサーン)を中心に養蚕の依頼を続けていたのですが、どこでどうやっても、同じようにうまくいきません。タイの養蚕家は、今まで通りの養蚕法でそれを育てようとし、私たちが教えたことには耳を貸そうとしないのです。TM-201はすぐれた品種ですが、とても手間暇がかかるのです。清潔や通風に注意し、天敵から守り、子どものように育てないと、うまく育ってはくれません。タイの原種とは当然やるべきことが全く違うのです。しかし、元々養蚕をやっている人には固定観念があり、結局悪いのは日本人と日本の品種、という結論になって、お金では動いてくれなかったのです。
-
全く素人のほうが、素直に学びを請うので、そのことを上手にできる、というのはよくある話しですよね。思い込みとか、既成概念って恐ろしいですね。
-
そうなんです。そこで、全く養蚕の心得がないところで、シルクに関係する産業がある場所、つまり、織りをしている地域で農家を説得して回ったのです。ここは、また次回のご訪問の際に、お連れしますね。(※養蚕家さん訪問の様子はこちら)
そうやって、現在は本プロジェクトを通じ、20軒ほどの養蚕家が育ち、質の高いTM-201を安定的に供給する体制が整いました。
養蚕を守りたい!次世代へつなぐ想い
-
蚕って、ほんとうに化学物質に弱いんですよね。なぜ、あれだけ汚染された中国であれほど大量の蚕が育ち、繭が得られるのかよく分からないのですが、日本でも里山再生のときには、桑畑(桑園)が山里に生物多様性をもたらすということで、桑の再生を行っているところも多くあります。
-
まさに。特にTM-201はハイブリッドであるがゆえに、もっと弱いのです。農薬が桑にかかっていて、それを蚕に食べさせると死滅してしまいます。繊細で素晴らしい蚕室の周りには、汚染されていない豊かな桑園があり、自然がバランスを取り戻すのです。
-
まさに、TM-201は清浄さのバロメーターなのですね。
-
当初は、金色の糸を使って、国際競争力のある、高品質、高付加価値の織物を作ろうとしていました。タイ政府農業省との共同事業ということで、No11という品種で織物を作ろうとしていたのです。それなりにうまくいきましたが、スタートして数年で役所の担当者が変わってしまい、全てがいきなり頓挫してしまいました。役所に頼ることが今も好きではないのは、この出来事があったからです。結局、日本中からかき集めた古い紡績機や織機などは、あれだけ徹底して修理し、運転できるようにしたにも関わらず、倉庫にしまったままになってしまいました。
-
それはもったいないですね。
-
私は、それでいいと思っています。というのも、今は中国産が圧巻しているシルクを巡る環境も、いつ、何がきっかけで大きく変わることも可能性としてありえると思うのです。そうなったときに、日本では養蚕の根が絶たれ、種も、紡績技術も守られていないと思うとぞっとします。
私がほそぼそとでも、この地で日本式の養蚕を守り、その技術を継承していれば、状況が変わったときに「はい、ここにありますよ」といえるわけです。だから、なんとしても、この養蚕を事業として維持、発展させる義務を感じながら日々を過ごしています。
-
素晴らしいです。さすが、サムライここにあり、ですね。
-
事業として継続していないと、結局蚕を買い上げることもできず、技術も残せません。タイ政府との繊維事業が頓挫したときに、ならばということで、工業絹のように高温乾燥をかけず、精錬もしない状態で豊富なセリシンを残したシルクを生かす製品として、スキンケア雑貨や、化粧品を考えつきました。
商業的に価値があるとされるシルク糸は、量があり、安く、化学繊維のように均質な糸です。しかし、私たちが追求していたのは、生での紡績でした。工業糸と生の糸では、光沢から美しさ、やわらかさまで、何もかも違うのです。同じシルクとは思えないほどの差でした。ただ、繊維に求められるのは、中国と戦う限り価格になってしまいます。価格で勝負せず、生であることを生かしたものづくりを決意しました。
ゴールデンシルク セリシンの秘密
-
それが、今回ご紹介するシリーズに繋がっていくのですね。
-
はい、生のシルクには大量のセリシンが残っています。このセリシンの効果は幅広く知られているように、抗酸化、メラニン抑制、コラーゲンの精製を助けるなどの素晴らしい効果があります。桑には桑の素晴らしさがあるので、桑の製品化も考えていますが、私自身がアトピーだったこともあって、じゃあ、キャリーオーバーを使うことなく、ゴールデンシルクのセリシンを取りだそうと研究を進めました。
-
化学物質を使わず、セリシンを取り出すのですか!しかも、低分子で分子量1000以下にするんですよね。その方法は、当然内緒ですよね。
-
中川さんだから、こっそりお教えします、でも絶対に口外しないでください。
「・・・・・・」
-
なるほど!私も●●か、××しか可能性がないと思っていたのですが、なんと××だったんですね。でも、安定供給のためには▽▽も、■■から調達する必要がありますよね。
-
はい、そのためには、もっとたくさんご購入いただいて、もっとたくさんの養蚕を養蚕家に依頼していく必要があります。まずは、御社に買っていただくことで、必要な設備をまた一つ買うことができそうです。
-
「いつか、その日のために」と、「お客様に素晴らしい効果を」と「清浄な環境を残す」いうことが同時に達成できるのですから、私たちが関与しないのはもったいないと心底思っています。
-
分子量1000以下の、低分子の吸収性のよいシルクセリシンを、何ら化学物質を使うことなく、抽出します。それを95%以上配合した濃縮エッセンスを、日本の基準で作りませんか? いろいろ混ぜてもいいのですが(実際に、既に日本で混合されたものは市販されています)、私はこの高濃度エッセンスが最高だと思っています。角質を落として肌を明るくするブラシもここチェンマイにある外資系の有名ブランドのコスメグッズを作っているメーカーで作れます。もちろん、私たちの工場で紡いだ生のシルクを使ったケアグッズもできますよ。セリシンいっぱい、タイでも大人気になりつつあります。
-
ぜひ、私たちにすべて取り組ませてください。弊社のお客様なら、江上さんの行動されている姿を理解してくださるお客様が他のどの会社よりも多いという自負があります。
-
もっと安定的な供給ができるよう、私も指導や開発に力を入れますね!「蚕」という文字は、「天の虫」と書きます。神様がくれた虫なのです。これを大切にすることが、私たちのミッションなのです。
-
私たちも、そこに関与させていただきます。ありがとうございました!
はらぺこあおむし、否、はらぺこお蚕さん。
蚕という文字は「天の虫」と書きます。
つまり、私の解釈によれば、「天の無私」、「天の無死」なのです。
遠くタイで、今日も日本とタイのDNAが結合し、増え続けています。
融合し、すぐれた遺伝子を残すこと。メンデル以来の発見が、また日本人をさらに美しくします。
『蚕(かいこ)』は「天の虫」と表現されている文字です。 日本人は「おかいこさん」と呼んで、そのありがたい価値を太古の昔から実感してきました。