「スペルト醤(ひしお)」~時代と文化の融合と超越
スペルト小麦と日本の醸造技術が邂逅し、誕生した旨みの極み
スペルト小麦で醤油をつくる?
2018年の6月に、突然、七福醸造さんから問い合わせがありました。
商品名がわからないのですが・・・
今、試作に使っている古代小麦 2種 それぞれ10KGの見積もりが欲しいのです。
プレマシャンティで「古代小麦」と呼ばれるものは、スペルトとカムット(ホラーサン あるいは コラーサンともいう)の2種ですが、弊社 沢山のアイテムをご紹介している兼ね合いもあって、面白いくらい種々様々なお問い合わせが舞い込みます。またお取引先やお付き合いのある方を経由して、全く面識のない方からも、ご相談を頂く機会も少なくありません。今思えば、これが私、プレマシャンティ開発チーム 横山が「スペルト醤(ひしお)」に巻き込まれた瞬間だったのでしょうが・・・。
三河地方で醸造をされる日東醸造さんとはご縁が深いプレマシャンティですが、七福醸造さんとは全くと云ってもよいほどご縁がありませんでしたので、ご連絡を頂いた理由も読めず、弊社がご紹介している古代小麦を試作に使っておられることにも、首を傾げるばかりでした。
七福醸造、「古代小麦」と出会う
愛知県碧南市に在する七福醸造さんは、日本でも三河と呼ばれる地区だけで製造されている「白醤油」の醸造元です。ひとくちに醤油といっても、JAS法に定められている規格に沿うと、「濃口」、「淡口」、「たまり」、「再仕込み」、「白」の5種があり、全生産量に占める「白醤油」の割合は1%足らずでしかありませんし、醸造元も数えるほど。日本の生産量の8割を占める濃口や、関西圏では欠かせない淡口醤油とも違い、主になる原材料が「小麦」、それもほぼ9割近く、で、色目も琥珀色という、普段多くの日本人が親しんできた「醤油」からは想像がつきにくい調味料が「白醤油」です。
味噌であろうと醤油であろうと、醸造元はどこも、地域性を生かしつつ、個々の味を追求しながらも新しい試みを続けています。七福醸造さんもまた、「白だし」の開発をはじめ、有機JAS認証を得た小麦と大豆を使った「有機白醤油」を醸造・販売されるなど、新しい挑戦をつづけておられます。
この七福醸造さんを「古代小麦」と引き合わせたのが、ベジタリアン料理研究家のericoさん。
ご自身の嗜好と身体にあうと「古代小麦」、とりわけスペルト小麦を溺愛され、粒や粉をつかった数多くのレシピをご提案されています。探求心旺盛で機動性も高い方なので、あちらこちらでスペルト小麦のお話をされるだけでなく、原材料としての国内で栽培しているひとたちがいると知ると、北海道まで飛んでいってしまうほど。これまでにもうどんやパンの作り手や、シェフや料理家たちがericoさんのスペルト愛に感化されてきました。ericoさんとプレマシャンティの関係が深くなったのも、きっかけは「スペルト」と「カムット」の小麦粒だったことを考え合わせると、プレマシャンティ・ericoさん・七福醸造さんのご縁は、「『古代小麦』が繋いだ」のかもしれません。
ericoさんプロフィール
ベジタリアン料理家。一般社団法人Neoベジタリアン代表。マクロビオティック望診法指導士プロフェッショナル(山村慎一郎 名古屋山村塾)、Neoベジタリアン料理・指導者養成コース主宰。1970年生まれ。京都在住。美大卒業後、タイルモザイクアーチストとして活動。京都にて2軒のカフェの立ち上げ&マネージメントを経て、現在に至る。重度のアトピーだった息子と暮らす経験と、「完全菜食」の実践経験を生かし、時代に沿った「プラントベース(穀菜食)」の料理&スイーツを伝えている。
スペルト醤(ひしお)が醸す味わい
私ならスペルト醤(ひしお)を次のように説明します。
- 熟成と味の変化が楽しめ、今までと違った味わいをもったスペルト小麦・大豆・塩の醸造品
- 醤油と呼ぶのは残念。旨みの調味料というとなお違う。
「だし」が入っているわけではないから、濃縮調味だしでもないし、調味料というのもなんとなくしっくりこない。かといって飲料でもないので・・・さて、どこに分類しようか?
出来たはいいけれど、説明して分類するには、とっても頭が痛くなるというのが、こういうアイテムです。
ericoさん曰く、「植物性の材料だけでつくったナンプラー」
確かに、塩味の濃さやまったりと濃厚にまとわりつく旨みが、どこかナンプラーにも似ています。使うなら数滴という点も、とってもよく似ているような。
ただ個人的には、仕上げに使うと「いるよ!」と主張するのに、調理の最初にほんの少量加えると、癖のある風味がどこかに消えるだけでなく、食材の、特にぼやっとしがちな水分の多い夏のお野菜などの、味わいを引き締め・底上げし・調和するあたりは、ナンプラーではない体験だと感じたのも事実です
記憶にある味をたどっていくのも、一興。
全く未知のものとして、使い方をたどってみるのもまた一興。
味噌でも、醤油でもない、「醤(ひしお)」。
スペルト醤(ひしお)のお披露目にあわせ、味わいの海を泳いだericoさんは、まずどう解釈されたのでしょうか。季刊紙「CLasism(クラシズム)」に掲載されたレシピをご紹介します。
にんじんのロースト
スペルト醤マヨネーズ&パンプキン醤ソース
じっくりローストした、ほくほく人参を、コクのあるパンプキンシードのソースと、スペルト醤で作ったヴィーガンマヨネーズで豪快に楽しむ一皿。
- 【材料】
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人参…500g 赤玉ねぎ…適量 オクラ…適量 EXVオリーブオイル… 50cc~ 自然塩…適量
トッピング:ローストアーモンドスライス・ローストクミンパウダー・ブラックペッパー - スペルト醤マヨネーズ
- ブレンダーで30秒攪拌して冷やしておく
無調整豆乳…80cc スペルト醤(又は有機白醤油)…40cc 菜種サラダ油…100cc 米酢…50cc 甜菜糖…大さじ1
- パンプキン醤ソース
- ブレンダーで滑らかになるまで攪拌しておく
パンプキンシードバター(またはピーナツバター)…50gメープルシロップ…小さじ1 スペルト醤(又は有機白醤油)…大さじ2 バルサミコ酢…大さじ1 コリアンダーパウダー…小さじ1/4 ローストクミンパウダー…小さじ1/4(クミンをこんがりローストしてから粉末にしたもの) ガーリックパウダー…少々
- 【作り方】
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- 野菜にオイルと塩をまぶし200度のオーブンで30分ロースト。 焼き上がったら2種のソースをかけて供する。
クリーミースパイスカレー with きゅうりの丸ごとアチャール
あっさりながら旨味とコクを重ねた印象的な和カレー。スペルト醤で味の輪郭が決まります。
- 【材料】
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ココナツオイル…40g クミンシード…小さじ1 コリアンダーシード…小さじ1/2 すりおろしにんにく…35g すりおろし生姜…30g ターメリックパウダー…大さじ1 クミンパウダー…大さじ2 コリアンダーパウダー…大さじ2 レッドペッパー…小さじ1/2
- (A)
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人参(1cm角切り)…1本分 レンコン(乱切り)…180g セロリ(小口切り)…60g 赤パプリカ(2cm角切り)…200g マッシュルーム…6個
- (B)
- ブレンダーでジュース状にしておく
カシューナッツ…80g 玉ねぎ…中1個分 ブイヨン…800cc
- (C)
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西京味噌…100g スペルト醤(又は有機白醤油)…30cc マンゴーピュレ…80g
- 【作り方】
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- 圧力鍋にココナツオイルを熱しクミンシードを加えて細かい泡が上がり香りが立ったらコリアンダーシードを加え、にん にく&生姜を加え生っぽさが無くなるまで加熱、ターメリックを加え1分ほど油に馴染ませ炒め合わせる。
- 残りのスパイス(A)を加え軽く馴染ませ、(B)を加え蓋をして中火で加熱。圧が上がったら火を止め、圧が下がったら蓋を 開け、(C)で調味して完成。
板ずりしたきゅうりに体重をかけて叩ききゅうりのように潰し、ビニール袋に入れ、スペルト醤…大さじ3、すりおろしにんにく…小さじ1、鷹の爪…1本、ミント生葉…ひとつかみ、を加えて漬け込む。
Vegan フラップジャック Flapjack
伝統的なイギリスのお菓子をスペルト醤で風味づけしヴィーガンでアレンジ。
どこか懐かしい風味になるから不思議。
- 【材料】20cm角型 1枚分
- (A)
- 鍋で煮溶かしておく
ノンアロマココナツオイル…100g メープルシロップ…大さじ3 ココナツシュガー…80g スペルト醤(又は有機白醤油)…大さじ2 モンレニオンバニラ…10滴
- (B)
- 混ぜ合わせておく
オートミール…200g ココナツロング…50g パンプキンシード…20g あればドライバーベリーかクランベリー…大さじ2 スペルト小麦粉…大さじ3
- 【作り方】
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- (A)が熱いうちに(B)とよく混ぜ合わせ、オーブンシートを敷いた型にしっかり詰め表面 を平らにする。
- 180℃に予熱したオーブンで約30分。全体がこんがりキツネ色になるまで焼き上げる。
- 型から出さず、カリカリになるまで完全に冷ましてから切り分ける。
ゴールデンミルク レイヤーケーキ
温かいミルクにターメリックを溶かし込んだゴールデンミルクラテの美味しさからヒントを得た、斬新なスパイシーケーキ。奇想天外な印象ですが誰もがもう一度食べたくなる魅惑のスイーツレシピです。
- 【材料】
- カカオスポンジ 16cm丸型2台分
- (A)と(B)を混ぜ合わせて180℃のオーブンで20分焼いておく
(A)豆乳(またはナッツミルク)…100g 甜菜糖…80g 山芋パウダー…8g 菜種油…100g インスタントコーヒー…大さじ1 グランマニエ酒…大さじ2
(B)スペルト小麦粉(精白タイプ)…70g ココアパウダー…25g アルミフリーBP…小さじ1 - ゴールデンミルククリーム
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(C)カシューナッツ…100g( *熱湯で洗って2時間ほど浸水。水を切り、約150gになったもの)
水…100g 柿(剥いたもの)…150g メープルシロップ…100g 甜菜糖…50g バオバブフルーツパウダー…大さじ1 ターメリック…大さじ1 カルダモンパウダー…小さじ1 生姜すりおろし…大さじ1~2 カカオバター…50g (*湯煎で溶かしておく)
(D)*煮溶かしておく
内、大さじ2はプラリネクリーム用にとっておく。
水…100g ルカンテンウルトラ…大さじ3(15g)
- プラリネ風クリーム
- 材料全部をパワーブレンダーで混ぜ合わせておく。
ゴールデンミルククリーム…200cc分
<カラメル>かなりダークなカラメルを作っておく
甜菜糖…40g 熱湯…大さじ2 ローストしたアーモンド…30g ゴールデンミルククリームでとっておいた(D)のルカンテン液…大さじ2 - ヴィーガンカスタード
- 材料を全て混ぜ合わせ中火にかけて沸騰後1分間煮ておく。
ゴールデンミルククリーム…200cc分
<カラメル>かなりダークなカラメルを作っておく
豆乳…300g 米粉…15g 甜菜糖…60g ルカンテンウルトラ…大さじ1(5g)ココナツオイル…30g かぼちゃパウダー(あれば)…大さじ1 バニラエキストラクト…小さじ2 ラム酒…小さじ2 - ココアの艶グラサージュ
- 小鍋で沸騰させた(E)を(F)に一気に混ぜ滑らかになるまで混ぜ合わせる。
(E)無調製豆乳(各種ナッツミルク)…150~160cc 寒天パウダー…小さじ1/4 本葛粉…小さじ1(3g)有機インスタント珈琲…小さじ1 自然塩…小さじ1/8 ラム酒…大さじ1 菜種油か太白胡麻油…大さじ1
(F)金属のボウルに入れてザッと混ぜ合わせておく ココアパウダ…30g 黒砂糖…60g
- 【作り方】
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- (重ねる順)カカオスポンジ→ゴールデンミルククリーム→プラリネ風クリーム→ヴィーガンカスタード→ココアの艶グラサージュ
- 冷蔵庫で冷やし固めて完成。
「超越」と「邂逅」~スペルトと醸造
七福醸造さんから、古代小麦のご相談を受けた同じ年の11月。
仕入れたスペルト小麦粒で仕込んだ、初めての「スペルト小麦白醤油」ができました。
見込みも、仕込みも、小麦にない難しさがあり、想定より出来高も少なかったようですが、「白しょうゆ」の固定概念を揺るがす味わいに、試食をした誰もが驚きました。出来上がった”白醤油”を、「プレマシャンティの仲間に」とご要望も頂きましたが、スペルト小麦で白醤油を仕込むという発想も、七福醸造さんへのラブコールも、起点はericoさん。ericoさんと七福醸造さんの間で試行を重ねたものだから、2者が主体で販売されるようお伝えしました。
そして、2020年春。
ericoさんと七福醸造 代表取締役社長 犬塚さんから改めてご連絡を頂きました。
仕込みが仕上がり、瓶詰まで完了し、販売できる状態になりつつあるが、名前やラベルが決まっていないというのです。改めて依頼を受け、プレマ株式会社として販売をお手伝いする前提で、碧南・京都をインターネットで繋ぎお話をさせて頂きました。
私からの提案は、ひとつです。
「白しょうゆ」や「しょうゆ」は、呼び名から外しませんか?
醤油と白醤油 ~既存概念の束縛という課題~
スペルト醤(ひしお)は、最初から延々とスペルト白醤油と呼ばれていました。
白醤油の醸造元 七福醸造さんなので、当然と云えば当然。
けれど、この「醤油」と「白醤油」いう呼び名は、私、プレマシャンティ開発チーム横山にとっては、非常に気がかりでした。
白醤油づくりの手法に倣って、1)麹付けをし、2)塩と小麦と大豆をあわせ、3)熟成した調味料であり、JAS規格では確かに「醤油」に区分されます。
ですが、問題はこの「醤油」という名称そのものです。
日本の食文化に深く根付いているがゆえに、「醤油」には、日本食に親しんで暮らしてきた私たちの内側で、知らず知らずのうちに形成された「既成概念」があるようです。この概念(イメージ)の範囲は、味わいもさることながら値段、さらにその「用途」をも固定化し、発想を束縛してしまう強さがあります。
どういう意味か?
味わいを例にとりましょう。醤油には、それぞれが味わいの尺度、つまり”醤油とはこういう味”という味わいのイメージを持っています。多少の違いであれば、尺度に照らし合わせ、「美味しい、美味しくない」程度の判断で終わりますが、尺度から乖離すると、「これは醤油でない」と判断されてしまいます。頻繁に耳にするのは、九州地方と関東圏・関西圏の方の、「醤油」の違いです。九州の醤油は、往々にして濃口醤油に砂糖を入れたような甘ったるさがあります。域外で育った味覚を持つ方は、これを「醤油でない」と云いますが、逆もまた真。九州の方が関西・関東へ移動すると、「使える醤油がない」と云います。色目が濃く、見た目が似ているゆえに、余計に乖離するのかもしれませんが、「醤油」という同じ調味料なのに、お互いの尺度が相反する良い例です。
白醤油は地域性の強い調味料であり、まだまだ認知される途上です。
ある意味、概念にとらわれてはいないものの、ericoさんが「植物性ナンプラー」とも表現されるスペルト小麦を醸造した「作品」の味わいは、日本の醤油とも、愛知県三河で醸造される白醤油とも異なるもの。用途もおのずと変わるだろうと想像もたやすいのに、瞬間のわかりやすさを優先し「このまま、醤油と呼んでいいのか?」と考えました。
白醤油 ~規格の束縛という課題~
「白醤油」という呼び名に至っては、規格との兼ね合いがあります。
薄い琥珀の色合いに特徴のある白醤油は、この色目の「特徴」を保持できる期間が、未開封賞味期限として扱われます。これは淡口醤油も同じこと。醤油はすべてJAS(日本農林規格)によって、種類やその特性、製造の仕方、うま味成分の指標である窒素分量、色度、等級、無塩可溶性固形分などの基準が厳格に設けられています。
色度とは、液の色目が薄い・濃いという色目の程度を意味し、醤油の色を数値で表した「醤油の標準色」に照らし合わせて判断されます。色目は濃いほど数字は小さく、大きくなるほど薄くなり、白醤油は、特級・上級・標準の3種の等級に共通し、色度(色番)が46以上でなければなりません。
(参考:一般財団法人 日本醤油技術センター ウェブサイト https://www.soysauce.or.jp/gijutsu/top.html)
七福醸造さん曰く、「スペルトで仕込んだ白醤油は、最初から色目が”濃い琥珀色”です。」
白醤油の淡い色目は概して熱や紫外線に弱く、もともと甘味を持つことも影響してか、還元糖とアミノ化合物が反応し褐色に変化するメイラード反応がおきてしまいます。カレーやソースをつくるときに、「低温で玉ねぎをあめ色になるまでじっくり炒める」、甘いあめ色玉ねぎづくりで起きている反応です。別名 褐変化反応ともいいますが、淡口醤油も白醤油も、色目の薄い醤油は、この褐変化が起きて琥珀色から、場合によっては濃い口しょうゆのような濃厚な色目に変化します。つまりこの褐変が起きると、特徴のひとつ「琥珀色」が失われるので、この色目を保持できると醸造蔵(販売者・製造者)が保証する期間が、白醤油の未開封賞味期限になります。これが大体、6か月です。
褐変すると味わいが損なわれるかというと、「YES」であり「NO」です。
白醤油がもつ味わいや素材の色目を残し料理を仕上げるという特徴は、確かに失われていきます。ですからこの点においては、「YES」です。ではなぜ、「NO」か。白醤油で往々にして感じる「塩からさ」が丸くなり、より濃厚にうま味を感じるようになるからです。スペルト小麦をつかったこの醸造品は、味の変化が楽しんで頂け、段階を追って用途もかわっていくような面白さがあるにも関わらず、「白醤油」と銘打った時点で、未開封賞味期限は瓶詰から最長6か月の制約を受けてしまいます。
未知の小麦~「スペルト」
最近でこそ店頭でも見かけるようになりましたが、スペルト小麦は日本ではまだまだ認知度が低い穀物です。国内の栽培も限られており、国産スペルト小麦は知る人ぞ知る存在です。
日本では英名の「スペルト」や「カムット」で知られる「古代小麦」たちは、ヨーロッパでパンや製菓につかわれるパン小麦やパスタにつかわれるデュラム小麦の原型といわれます。現代にのこるスペルトやカムットは、栽培しやすいよう交配・改良された種もすくなくないため、厳密には原種とは異なるものが大半ですが、その歴史は紀元前にまでさかのぼります。ヨーロッパで栽培がはじまったのも、広く食されるようになったのも、また紀元前という説があり、特にスペルト小麦は、中世ヨーロッパ最大の賢女とも呼ばれるドイツのベネディクト会系修道女 ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの影響もあってか、健康を気にする方々の間ではとくに浸透しています。
古代小麦という用語は、往々にして原種を意味するようですが、この点では、スペルトもカムットも厳密には「古代」小麦ではありません。特に先進国を中心に需要が高まり始めてからは、気候の変化もうけて、栽培しやすいように改良されている種もあると云われていますので、「原種」のスペルト・カムットを探すのも大変になってきているのも事実です。ただそれでも、「緑の革命」以来品種改良が続いてきたパン小麦などと比較すると改良の度合いが浅いと云われます。それゆえなのか、スペルトやカムットは外皮が固く、とても硬質。小麦や大麦を古くから醸造してきた日本であっても、「麦」だからと置き換えて、麹付けがしにくい穀物でもあります。初回の試行を経て、スペルト小麦で醸造すると連絡を頂きましたが、皮が厚く硬質なスペルト小麦に、安定して菌糸がはいるのかは、非常に気になる部分でした。
またスペルト小麦と小麦では、価格の差は数倍です。
国内で栽培をしていないので、輸入に頼るしかないのも気になるところですが、そもそも、生育をしているヨーロッパですら、有機小麦と有機スペルト小麦の価格は1.5~2倍近く。これが日本に輸入されると、お値段がさらにあがります。七福醸造さんの有機白しょうゆが、1本300mlで1000円弱であることを考えると・・・価格の面でも「白醤油」と呼ぶにはかなり高価。むしろ市販で身近な調味料である「醤油」からは、価格の面で大きく乖離してしまいます。
原材料も、味わいも、価格も、既存の「概念」に当てはまらないのであれば、無理やり「しょうゆ」に当てはめて、縛り付ける必要はないのじゃないか?
それが私からの提案の根拠でした。
醤油の原型は、ひしおであると云われます。
ひしおは、味噌の原型でもあります。
穀物を醸した「穀醤(こくしょう)」、魚を醸した「魚醤(ぎょしょう)」、動物の肉を醸した「肉醤(にくしょう)」。中国から伝わったこの3つとは別に、日本では植物を醸した「草醤(くさびしお)」があったといわれます。日本の醸造文化の原点である「醤(ひしお)」をスペルトに結びつけたのは、七福醸造さんです。そしてこのスペルト醤(ひしお)を、世界中の料理や製菓と結びつけ、食卓に送り出すのがericoさんです。
スペルトを醸した「穀醤」、スペルト醤。
歴史を辿り、ヨーロッパとアジアの叡智を、そして日本が脈々と繋いできた醸造文化と現代の技術を応用し、生まれた新しい味わいは、再び国境を越え、世界中の食文化と結びつき、多くの人々の笑顔につながります。
スペルト小麦「醤」の感想です
ほんのりと、まるで「だし」が加わっているあのような風味がします。塩っけはしっかり強くても、どこか柔らかな味わいが感じられます。
普通、醤油をかける冷ややっこやホウレン草のおひたしなどに、醤油の代わりに、「醤」をかけると「だし醤油?」の感じがして、お手軽な料理なのに、ワンランクアップしたような感じに仕上がりに!もちろん納豆にも合うし、塩もみしたキュウリにかけると、数時間寝かせた浅漬けのような風味になります。
また、北陸育ちの私が作る煮物は「醤油・みりん・酒・砂糖」の田舎風の茶色い(醤油味の)煮物が一般的。京都の薄口醤油や出汁を効かせてという調理が私には難しく、かといって、粉末だしでごまかすのも嫌でしたので、やっぱり基本の茶色い煮物に落ち着いていました。そんな私が醤油を控えて、「醤」を使ってみました。砂糖も控えめにしてみたので、炊いている間は味が薄く感じることもありますが、仕上げにたらりと「醤」をひと回し加えるだけで、しっかりとコクのある旨味がプラスされているのです!もちろん見た目は素材の色を生かされており、薄味?に思えるような見た目ですが、しっかり味が整って味も納得できたんです。まだ作ってはないけど、「絶対おでんに合うだろうな!」と早く作りたいなと思っています。
「醤」は価格が高い分、醤油並みにたっぷり使うのをためらいますが、その分、「醤油+醤」を半々ずつ、もしくは仕上げに少量加えるだけでも、十分なコクが加わるので、いつもの料理をグレートアップはもちろん、料理が苦手な方にも立派な一品に仕上がります。
プロモーションセクション 山崎美穂