≫石けんや洗剤などは、暮らしの中でどのように役立っているのでしょう
現代に生きる私達は日常生活を清潔で衛生的に過ごすことができるようになりました。歴史を振り返っても、清潔で健康な生活のために石けんや洗剤などが重要な役割を果たしてきたことがわかります。
清潔を意識するようになったのは、14世紀半ばにヨーロッパ大陸で大流行したペストがきっかけということですが、日本でも1940年代頃の衛生状態は極端に悪く、人々はノミやシラミに悩まされました。その後、石けんや洗剤が普及するにつれ人々の清潔への関心も高まり、入浴時の石けん使用やシャンプーによる洗髪習慣の定着などにより、身体を清潔に保って過ごせるようになったのです。
身体の清潔とともに、私達をとりまく環境も大変衛生的になりました。例えば食生活の面では、石けんの普及と「手洗い」の習慣化が、手を介在した食中毒や伝染病の減少に寄与してきました。また、わが国で戦後猛威を振るった回虫やぎょう虫などの寄生虫の罹患率は、農作業方法が下肥利用から化学肥料や農薬の使用に転換したことや、台所用洗剤による野菜や食器の洗浄で寄生虫卵が洗い流されるようになったことにより、著しく減少しました。また、食生活が欧米化し、油を多く含んだ食事の後片付けにも台所用洗剤は欠かせないものとなっています。
衣生活の面では、石けんや洗剤の優れた洗浄力により、清潔な衣料を身につけられるようになりました。家事の1つとして時間と労力のかかった洗濯についても、電気洗濯機の普及とともに、石けんや洗剤が主婦への負担を著しく軽減しました。
住環境においては、各種住宅設備、機器の発達による住宅の変化と同時に、住まい方も個人個人で多様化してきました。こうした変化に合わせて、住宅用の洗剤、洗浄剤も多くの種類が開発されており、これらの使用により様々な汚れを簡単に効率よく落とすことが可能になりました。
特に最近では、清潔な住まいは衛生管理の基本にとどまらず、「心地よさ」や「家族だんらん」をつくり出すことにつながると考えられており、住宅用の洗剤類の役割も大変大きくなっています。
このように、石けんや洗剤などは衣・食・住と生活全般を清潔に保つとともに、健康、衛生、効率といった面で、豊かな暮らしに役立っているのです。
≫石けんの歴史について
紀元前3000年代のものとして復元されたシュメール(バビロニア南部の地名)の粘土板には、薬用としての石けんが登場しており、その製法まで書かれています。ローマ時代(約3000年前)の初期に、サブルの丘でいけにえの羊を焼いて神に供える風習があり、したたり落ちた脂と木の灰(アルカリ成分)とから自然に石けんができ、土にしみこんでいました。この土は人々から汚れをよく落とす不思議な土として大切にされ、このサブルがソープ(Soap=石けん)の名の起こりといわれています。
石けんは、12世紀頃から大量に生産されるようになりました。日本で昔からいわれている「マルセル石けん」の名は、当時ヨーロッパ石けん工業の中心地であったフランスの都市・マルセイユに由来したものです。13~14世紀に入ってロンドンに石けん業者のギルドが成立し、ドイツでは14世紀頃、南部諸都市に石けん工場ができました。しかし、石けん工業に飛躍的発展をもたらしたのは、イギリスに始まった産業革命による化学分野での次の3つの発見です。
- シューレによるグリセリンの発見(1779)
- ルブランによる人工ソーダ製造法の発見(1790)
- シュヴルールによる油脂の化学的組成の発見(1811)
また、1830年代未にイギリス、フランスで起こった蒸気加熱によるけん化の技術は、1870年代には完全に普及し、こうして石けんの近代工業が生まれました。
日本へは1543年(天文12)、ポルトガル、スペインから渡航したキリスト教宣教師たちの土産品として、帽子、ラシャ、合羽、金平糖などとともに初めて持ち込まれました。
当時の石けんは軟石けん(カリウム石けん)のためツボ入りのものが多く、武将たちにとっては財宝の1つでした。江戸時代の後期になると、石けんがしみぬきに使われた記録がありますが、石けんを洗濯や入浴に使うことができたのは極めて限られた人たちでした。当時石けんの最も重要な用途は薬用でした。民間による石けんの製造は、明治5年に始まりますが、いわゆる銘柄石けんの登場は明治20年代に入ってからです。
≫石けんとはどのようなものですか。原料は何ですか
広東には、石けんとは高級脂肪酸(一般にC8以上)の塩の総称です。狭義には洗浄を主目的とするもので、水溶性の脂肪酸アルカリ塩を指します。アルカリは普通、ナトリウムとカリウムですが、エタノールアミン等の有機塩基も含まれます。
石けんは、主に天然の動植物油脂を原料としてつくられます。動物油脂としては牛脂や豚脂などが、また植物油ではパーム油、ヤシ油、米ぬか油、大豆油などが用いられます。
実際の石けんに使われる脂肪酸の鎖長は大体C8以上で、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(CIS)、オレイン酸(C18不飽和)がよく用いられます。
石けんの主な性質は以下の通りです。
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液性(pH)
石けんは弱酸(脂肪酸)と強アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)の塩であるため、水溶液は弱アルカリ性(pH10程度)を示します。また酸性には弱く、 pH5以下では分解して脂肪酸となり、洗浄力がなくなります。
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溶解性
石けんは、水、アルコール以外の溶媒には比較的溶けにくく、エーテル、ベンゼンなどの溶剤には溶けません。一般に溶解度は、分子量の大きいものほど小さくなっています。また、脂肪酸の塩の種類によっても溶解度が異なり、カリウム塩やトリエタノールアミン塩は、ナトリウム塩に比べて溶解性が著しく大きいのが特長です。
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水の硬度の影響
石けんは、水中の金属イオンと結合して水に溶けない「金属石けん」をつくります。カルシウムイオンによるカルシウム石けん、マグネシウムイオンによるマグネシウム石けんが代表的です。この金属石けんに皮脂などの汚れがついたものを「石けんカス」といいます。従って石けんは、カルシウムやマグネシウムの含有量の多い硬水中では、泡立ちも弱まり、充分に洗浄力を発揮することができません。
≫石けんの毒性について
石けんの安全性は十分に確認されており、通常の使用においては安全性上の問題はありません。以下に各毒性について簡単に説明します。
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短期(急性)毒性
誤って洗剤を一度に多量に飲み込んでしまった場合の安全性も、動物実験の結果、十分確かめられています。このような実験を短期(急性)毒性試験といい、一般には実験動物の体重1kg当たりどれだけの量を一度に与えたら、実験動物の半数が死ぬかという数個(これをLD50値といいます)で表わします。
石けんその他のLD50値(g/kg)としては次のような値が知られています。
石けん・洗剤などのLD50値
試料 |
LD50値 |
動物 |
石けん |
16以上 |
マウス |
固形化粧石けん |
7~20 |
ラット |
クレンザー |
10以上 |
ラット |
シャンプー |
5~10 |
ラット |
合成洗剤(衣料用) |
4~7 |
ラット |
合成洗剤(台所用) |
6~10 |
ラット |
食塩 |
3.75 |
ラット |
ふくらし粉 |
3~4 |
ラット |
※日本石鹸洗剤工業会資料
石けんのLD50値は7~20g/kg程度です。
また、石けんや合成洗剤などは多くの場合、その苦味や嘔吐作用で万一口から入っても大部分は吐き出されてしまいます。
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長期(慢性)毒性
石けんは日常使用されるものですから、毎日使用しても、健康に悪い影響を与えないものであることが第一です。このため、まず動物に長期間与え続ける拭験を行い、健康に悪影響のない最大量(最大無影響量)を求めます。このような試験を長期毒性試験といいます。
この最大無影響量と日常生活で人に入ると考えられる量(人体最大摂取量)と比較して、安全性の評価がなされます。WHO(世界保健機構)やFDA(米国食品医薬品局)などの国際的機関により食品添加物等の安全性を評価する場合、動物を用いた長期毒性試験の結果得られた放大無影響量が人体最大摂取量の100倍以上であることが、安全性評価の1つの目安となっています。石けんの最大無影響量は2000mg/kg/日、人体最大摂取量は0.30mg/kg/日と概算されており、これより石けんの安全率を求めると次のようになります。
動物の最大無影響量 |
2000mg/kg/日 |
= |
6,667倍余 |
|
人体最大摂取量 |
0.30mg/kg/日 |
|
この値は、WHOが食品添加物の安全性評価の基準としている安全率100倍以上を、充分に満たしています。
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催寄形性
石けんの催奇形性については、イギリスのハンチングドン研究所のパーマー(Palmer)らにより試験がなされ合成洗剤と同様に、一般に奇形など次世代への影響には心配のないことが確認されています。
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≫石けんカスとは何ですか
例えば、浴室で使用する洗面器に付着する白い汚れは、石けんカスが主成分です。また、温泉のような金属イオンが多く含まれている硬水では、石けんが泡立ちにくい場合がありますが、これも石けん成分が泡立たない石けんカスに変化するためです。
石けんは、水中に存在するカルシウムやマグネシウム等の金属イオンと反応して、水に溶けない「金属石けん」を生じます。この現象は石けんを使用すると必ずみられる現象です。
「石けんカス」とは、金属石けんに皮脂などの汚れが結合したもので、比重が小さいため水面に浮遊します。
すなわち、石けんが水中のカルシウムやマグネシウムイオンと結合して水に溶けない「石けんカス」をつくるわけです。 |