炭シャンプーを初めて作ったのは美容師になって20年程経った頃でした。
何人ものお客様の髪にじかに触れ、お悩みを聞いてきた20年間は、ヘアスタイルの流行もヘアケアのための製品も変遷しました。10年目くらいからでしょうか、男性ばかりではなく女性からも抜け毛や細毛、うんと若い方からもダメージヘア、頭皮トラブルのお悩みが多くなってきたように感じ始めました。一方美容師である私たちの悩みといえば手荒れです。パーマ液やカラーなどの薬剤は手袋などをして扱う事ができますが、シャンプーを担当する事が多い若いスタッフ程、手は常にシャンプー剤とお湯で洗い流されている状態です。
もちろん抜け毛や頭皮荒れの全てがシャンプー剤をはじめとしたヘアケア製品が原因なのだと言っている訳ではありません。ストレスや食事、生活習慣も大きく影響するはずです。ただ、当時の製品の流れは「もっとしっとり」「もっと便利に」と、香りや色に特徴をもたせた物や、リンスinシャンプーが人気だった頃で、私がほしかった「本当に安心して使い続けられる」ナチュラルな物は見つけられませんでした。
そもそもシャンプーというのは、古い皮脂や角質、生活による汚れなどを取り除き、頭皮と髪を清潔に健やかにに保つためにする事だと思います。そしてその過程で頭皮や髪は刺激や負担はなるべく受けず、余計な物は残留しないのが望ましいと考えています。神経質なようですが、石油由来製品を肌や頭皮に直接つけ続ける事さえも不安を感じておりました。そんな頃、知り合いのお宅で生活に炭を利用されているのを見ました。飲み水に、お風呂のお湯に、炊飯に、冷蔵庫に…。炭を分けていただいて自分の家でも使いはじめ、炭について書かれた本を調べてみたりするうちに、すっかりその自然素材にはまってしまいました。炭はその表面の無数のミクロ孔が汚れや皮脂も吸着するともいわれているそうです。「これをシャンプーに入れたらどうかな…」。
美容室の仕事のかたわら製造工場をたずね、美容室のお客様が、家族が、そして自分が使うためのシャンプーづくりを始めました。ボディや顔も洗える安全性と髪や頭皮の健康を第一に考え、素材から希望を出し、試作、調合を繰り返しました。炭以外の原料も試してみました。実際に自分が使ってみて洗い上がりを自分の肌と髪で実感し、安全かどうか納得するために自分の頭をまるめて原液を塗ってみたりもしました(※右写真)。
ひとつ問題がありました。シャンプーというのは、洗う時の指通りのためにリンス成分を配合するのが普通だという事です。リンス成分は石油由来系のもの(カチオン)が一般的で、髪の表面をコートして指通りをなめらかにします。しかし私は、汚れを包み込んだまま頭皮にも残留するように思えました。
「リンス成分を抜いた炭シャンプー」を試してみたのはいうまでもありません。当然、濡れている間の指通りはそれまでのシャンプーとは違い、きしみ感さえありました。しかし乾かした時の潔いほどのサラサラ感もまた、それまで自分が使ってきたシャンプーとは全く違うものでした。
こうして1998年8月「クライファー炭シャンプー」が誕生しました。真っ黒で、よい香りがついている訳でもない、しかも指通りの悪いシャンプーであるにもかかわらず、発売当初から大変な話題となり、今でも多くの方々がクライファーシリーズを必要としてくださっています。それはきっとこの製品が「与え、付け足していくばかりのヘアケア、スキンケア」とは異なり、肌や髪自身が本来持っているはずの力を引き出していく『足し算ではなく引き算のヘアケア、スキンケア』を目指しているところに理由があるのではないかと感じています。
株式会社イクスパンド・フィット 代表取締役
清水 秀次